人口減少の「バス」に乗ったのは「日本だけ」

韓国も2037年、中国も2039年に人口減少に転じる。だが、中国では最近、「一人っ子政策」を転換し、2013年から条件付きながら、一部地方で第二子出産が容認される。全土としては2014年から本格実施の見込みだ。中国も、人口減少を食い止める可能性が出てきた。

なぜ、どのように欧州各国が人口増加策に転じたかは、今後の取材で明らかにしていきたい。今のところ明らかなのは、人口減少・高齢化社会の進行とともに必ず起きる、経済の長期的な低迷や、「財政・年金の破たんへの恐怖心が、日本よりも強いであろうことだ。

10年前、筆者は人口減少に対する見解を次のように書いた。

--人口減少下の経済については、楽観論も多い。その多くは
①人口が減れば、1人当たりの資本ストックや実質賃金が増え、1人当たりの実質GDPが増える
② IT(情報技術)による効率化や独自の技術開発で国際的優位を確保できる
③ 女性や高齢者活用による社会の活性化が期待できる―という趣旨だ。

筆者はそのどれにも懐疑的だが、これらが実現しても、なお、今後、起きると見られる事象が三つある。それは① 市場の奪い合い②住民の奪い合い③労働者の奪い合い という「三つの争奪戦」だ。

GDPが15年間で6.7% 減るということは現在のGDP 500兆円のうち30兆円以上が「蒸発」する計算になる。これによる「市場の奪い合い」は明白だ。1人が1日に食べるパンの量は変わらない。

人口が減れば、おおよそ同じ割合で、市場規模が縮小していく。そのペースは毎年、「相模原市」1個分だ。人口減少は、あらゆる「内需依存型」産業に影響する--(引用終わり)

2012年現在、上記の状況は何一つ、改善されていない。むしろ、所得格差は拡大し、社会問題はさらに拡大している。

楽観論者にとって、最後の砦であった「先進国は、みな同じバスに乗っている」という言い訳は、結果的に事実でなくなった。みな、そのバスを降りてしまったからである。

日本社会における社会的な課題は山積しているが、最も優先順位が高い課題は、間違いなく「人口減少問題」である。

その解決なくして、日本の未来はない。産官民が一致団結して、日本の人口減少を食い止めるための、あらゆる方策を尽くすべきであろう。
(「オルタナ」編集長 森 摂)

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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