「欧州企業と人権(1)ギャップ分析とは」――下田屋毅の欧州CSR最前線(25)

■ 「人権を尊重する企業の責任」とは

ロンドンで、セミナーやワークショップの機会を活用し、CSRヨーロッパのスタッフ、人権の専門コンサルタント、その他CSR関係者や企業の人に話を聞くと、「『国連ビジネスと人権に関する指導原則』に則った欧州企業の人権のフレームワークづくりは、欧州企業においても、まだスタート地点にいる」ということである。

「国連ビジネスと人権に関する指導原則」は、1.国家による人権保護の義務、2.人権を尊重する企業の責任、3.人権侵害を受けた者への救済へのアクセス――から構成され、「人権の尊重」、「救済へのアクセス」に関して企業の取り組みが必要とされている。

「人権を尊重する企業の責任」をまとめると以下の4つだ。

1)人権方針:人権を尊重する責任を果たすというコミットメント
2)人権デュー・ディリジェンス:人権への影響を特定、防止、軽減する。また、どのように対処するか責任をもつプロセス
3)是正:企業の人権への負の影響を是正するプロセス
4)状況の問題:どの地域の事業活動においても、法令を遵守し、国際原則で認められた人権を尊重する。国内法と国際原則が相反する場合は、国際原則の尊重を追及する

「救済へのアクセス」は、次のとおり。

1)苦情処理メカニズム:企業は苦情処理メカニズムと呼ばれる救済制度を設け、その実効性を確保する

世界最大の鉄鋼メーカーであるアルセロールミッタル社(本社:ルクセンブルク)は、上記の「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に則って人権プログラムを作成、1.方針開発、2.コミュニケーション、3.トレーニング・認識、4.プロセスと手順、5.追跡――の順番でサイクルを回し始めた。

アルセロールミッタル社は、CSRヨーロッパのエンタープライズ2020プロジェクトのサプライチェーンと人権の共同リーダーを務め、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に則って人権プログラムを作成している最先進企業といえる。だが、実際には、アルセロールミッタル社ほど指導原則の枠組みに沿ってプログラムの作成・推進ができている企業は他にあまり見受けられない。

しかしながら、欧州の先進企業は、人権に関しての取り組みは今までも実施してきており、人権に関するプログラムを既に持っている。「人権プログラム」と「国連ビジネスと人権に関する指導原則」とのギャップ分析を実施することから始めているようだ。

■ ギャップ分析後、指導原則との一致目指す

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下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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