市民不在で決まった「年間20ミリシーベルト」

■長瀧氏、山下氏らが影響力?

ICRPの勧告では、参考モデルで基準を定める場合、なるべく低い数値を取るよう求めている。では、なぜ20ミリシーベルトが選ばれたのか。民主党の長島昭久衆院議員は当時、ツイッターで「彼(鈴木氏)は、休校や疎開による子供達の精神的なショックや差別などによるストレスの可能性を非常に心配していた」と指摘している。

一方、宗教学者の島薗進氏は、12年11月に開かれた東大医科学研究所のシンポジウムで、出席した鈴木氏が年間20ミリ基準の決定過程を振り返り、放射線医学の専門家である「長瀧重信氏、山下俊一氏ら、また日本学術会議に依拠せざるをえなかった。政府の政治的な誤りというより、学会の側に問題があった」との認識を示していたと、こちらもツイッターで証言している。

長瀧氏は「年間1ミリ基準は厳しく、現実的でない」とする立場の人物だ。山下氏も東電原発事故直後、福島県内で「ニコニコしている人に放射線の影響は来ません」などと講演したことで知られる。年間20ミリ基準は、これら専門家の意向が影響した可能性がある。

■年間20ミリ基準の再考を

いずれにせよ、年間20ミリ基準は市民の不安をよそに決められた。福島県二本松市に住む主婦は「被ばく線量が年間1ミリシーベルト以上になれば、小さいとはいえリスクが生じ、子どもの健康も気になる」と話す。

満田氏は「平常時の年間1ミリ基準は社会的な約束事であり、それを反故にするのはおかしい」として基準撤回を求めつつ「避難や帰還は、個人の選択が保障されるべき」と訴える。

計画的避難区域の基準も年間20ミリシーベルトだ。国連人権理事会における特別報告者、アナンド・グローバー氏は今年5月、「健康に対する負の影響の可能性に鑑みて、避難者は可能な限り、年1ミリシーベルトを下回ってから帰還が推奨されるべき。避難者が、帰還するか留まるか自ら判断できるように、日本政府は賠償および支援を供与し続けるべきである」と勧告した。年間20ミリ基準の再考が問われる。(オルタナ編集委員=斉藤円華)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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