バングラデシュ、ビル倒壊の教訓――下田屋毅の欧州CSR最前線(31)

■主要アパレル企業の対応

・欧州のアパレル企業

欧州の主要アパレル企業は5月、スイスを拠点にする「インダストリオール国際労働組合」と「UNI国際労働組合」のイニシアチブによって開始された「バングラデシュの火災と建築安全に関する協定」に署名した。この協定は5年を期限とし、参加企業は、プライマーク、H&M、マンゴー、ZARA、マークス&スペンサー、ベネトン・グループなど計80社におよぶ。

金銭的サポートとして、協定の参加企業は、各企業1社当たり5年間で最大250万ドル(年間50万ドル)を支払い、この資金援助は、運営委員会、保安検査官と研修コーディネーターの活動に供給される。各社の支払額はバングラデシュでの生産量に基づいて算出される。

プライマークの倫理取引ディレクターであるキャサリン・カーク氏は、「協定にサインすることによって、少なくとも5年間バングラデシュでのビジネスを維持することを我々はコミットしている。その期間の後は、我々は我々の立場を再評価する必要がある。我々は危険な工場にいたくはない」と述べている。

プライマークは、ラナプラザ内で衣料品を生産していた約40のブランドの1つであった。

プライマークのローカルチームは、被害者を特定、サポートする為にヘルプデスクを設置、NGOとの協働により食糧援助、3カ月分の給料にあたる短期金融支援を約束。また、プライマークの衣服の生産工場で働いていた労働者とその家族のために適切な長期的補償やサポートサービスを提供していく予定とのこと。

・北米のアパレル企業

一方、北米では2013年7月10日、前米上院議員2人の指導の下に「バングラデシュ労働者の安全イニシアチブ」が立ち上げられた。そして、5年間のこのイニシアチブを支持するためにウォールマート、ギャップ、シアーズなどを含む北米の17社が、「バングラデシュ労働者の安全のための同盟」を結成し、視察、研修および労働者の地位向上に向けた積極的なスケジュールと説明責任を定めた。

この同盟の一環として、これら北米企業は、これまで合計4千2百万ドルの資金調達をし、工場が安全性を改善するためにさらに1億ドルを追加融資する。

北米企業がこの同盟を別に立ち上げた背景として、「欧州企業の世界協定は、企業に無限に責任を負わせるものとしていて、協定に反対している」とし、「世界協定は、資金使途について明確な説明をせず、民間企業からの大規模な資金調達を求めている」と言う。

ウォールマート、SVP&グローバル・チーフ・コンプライアンス・オフィサーであるジェイ・ヨルゲンセン氏は、「すべての労働者は、彼らがどこにいるかに関係なく、安全な環境への権利を持っている。パートナーシップと協働は、それを築くために重要である」と声明を発表している。

 

欧州企業と北米企業の思惑の違いから、バングラデシュ労働者に対する安全対策の動きが分かれてしまっているのは残念だが、双方の姿勢として評価されるべきは、双方ともその事態から逃げるのではなく、企業責任として積極的に関与しようとしているということである。

これはグローバリゼーションの中で享受するだけでなく、それぞれの企業が、カントリーリスクの高いバングラデシュを今後も生産拠点として位置付けるとともに、企業責任としてバングラデシュの事故に対応しようとするものである。

今回の件で明確になっているのは、1社で企業責任を果たすのには限界があるということ、そして、サステナビリティの観点から企業間での協調行動が求められてきていて、欧米の企業は連携を行っている。

今回の件は、縫製産業での災害であるが、新興国・発展途上国では、今後発生する可能性のある事故である。グローバリゼーションの中で、先進国が、新興国・発展途上国から享受(搾取)する構造から、サプライチェーン全体を考えた企業責任を自社としてどのように考え、対応していくかは非常に重要な問題である。

対応に関して他の日本企業との横並びを考えるのではなく、世界の中で自社としてどのように企業責任として対応するのか。そしてどのようにイニシアチブを取っていくのか。日本企業それぞれが今後試されることになる。

今回の事故は改めてサプライチェーンでのCSRの重要性を考えるきっかけになったと思う。是非対岸の火事とせず自社のケースに置き換えて取り組みをしていただきたい。

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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