環境NGO「温室効果ガス排出削減目標の大幅後退は容認できない」

1.科学が示す必要なレベルの削減目標であること

気候変動による破滅的な状況を回避するためには、産業革命以前からの全球平均気温の上昇幅を2℃未満に抑えることが不可欠である。「気温上昇幅を2℃未満に抑える」という目標は、2015年頃までに世界の排出量のピークを迎え、その後急速に減少方向へ向かわせることを意味する。この達成に向け、先進国は、全体として、最低でも1990年比で2020年までに25~40%の削減という目標を設定する必要があるとされている。

しかし世界各国の削減目標水準はこの目標に届かず、国際交渉では2020年までの削減レベルの引き上げが議論されており、COP19の重要なテーマとなっている。その中で、日本が「1990年比25%削減」を下回る削減目標に引き下げれば、排出削減努力の引き上げによって排出ギャップを埋めようとする世界の取り組みに水を差すだけである。日本の目標は、科学に基づく野心的なものとすべきだ。

2.「原発ゼロか温暖化対策か」の二者択一ではない方向性を示すこと

東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、国内の原発はすべて停止している。福島原発事故で多くの人たちが避難生活を強いられ、現場では命がけの作業が行なわれている。また、福島原発事故の原因は解明されず、いまだに放射性物質が大量に環境中に垂れ流され、きわめて深刻な事態だ。そのような状況下、原発再稼働を前提とする議論は到底受け入れられず、かつてのように温暖化対策の柱にすることは全く現実的ではない。

他方、原発ゼロとすることで火力発電所を増やしCO2排出を増やしていいということではない。2020年に原発ゼロを前提に、再生可能エネルギーの導入と省エネルギーの積極的な強化によって、温暖化対策を犠牲にせず、削減可能性を最大限引き出す目標とすべきである。

3.基準年は1990年比で示すこと

京都議定書では1990年を基準年としてその削減目標が定められ、日本は第一約束期間(2008年から2012年)において、6%削減の義務を負い、「2020年25%削減」の目標も1990年を基準年としていた。

しかし、今回報じられたような2005年を基準年とすることは、1990年の排出量から7.8%も増加している年であり、削減数値目標を大きく見せるためのごまかしでしかない。姑息な「基準年ずらし」はしないよう求める。

4.透明性のあるプロセスで決定すること

安倍首相の指示を受け、現在、環境省の中央環境審議会と経済産業省の産業構造審議会の合同部会において審議が行われている。しかし、これまでの審議では具体的な削減目標数値についてのオプションなどの検討は一切行われていない。公開の議論が全くない中で、報道では、10月1日の関係閣僚会議において目標の調整について議論が行われ、そのプロセスも根拠も全く不透明だ。今後の環境・エネルギー政策方針にとって極めて重要な中期目標に関する議論は、このような形で密室で審議し、決定すべきではない。上記の論点もふまえ、経済界など一部のステークホルダーだけではなく、NGOや市民の参加の機会をつくり、透明性を確保したプロセスを通じて民主的に決定するべきである。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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