「なぜ世界はIPCCを信頼するのか」――IPCC第1作業部会報告(下)

■ 各国政府が一文一文を承認していく

今回の報告書は、IPCC第1作業部会の総会の会期4日間が終了した翌27日に発表されました。

IPCC報告書は、国際的にもっとも信頼のある温暖化の知見として、気候変動枠組条約など、各国が温暖化の国際交渉に臨む際の基礎情報となります。ご存知のように温暖化の国際交渉は、各国が国益をかけてぶつかる交渉で、その結果は各国の温暖化政策の元となります。政策を大きく左右することになるため、科学の報告書ながら、世界100カ国以上の政府代表団が集まる総会で、承認作業が行われるのです。

承認作業は、2000ページにわたる本報告書から抽出された30ページ程度の「政策決定者向けの要約」の一文一文を対象に行われます。

4日間の会期中、最後の二日はほとんど徹夜で作業が進められ、ようやく最終日9月27日の午前5時にすべての承認作業が終了し、無事「政策決定者向けの要約」の発表にこぎつけられました。

承認作業がなぜこんなに時間がかかるかは、各政府によって要約に取り上げるべきと思う箇所が違ったり、説明を加えたりしたいためですが、いつもの温暖化の交渉とは違って、多くの国が一つの目的に向かって協力している姿も多く見られ、非常に新鮮でした(もちろん時に自国の主張むき出しという場面もありましたが)。

各政府代表団が口々に言っていたのは、「我が国の大臣が理解できるように」という言葉で、わかりにくい科学の表現をなんとか工夫しようと次々にアイデアを出していました。

それぞれの文章の承認作業には執筆した科学者が登場し、各国政府の提案に対して、科学の報告書としての正確さを損なわないようにと議論し、ものによっては別室に小グループが作られ、夜を徹して作業が行われていったのです。

約900人の執筆者(科学者)が、世界中の査読された温暖化に関する論文を、さらに精査して報告書にまとめ、その「要約」を、世界100か国以上の政府が一文一文承認していく、という作業を経るIPCC報告書。科学の報告書としては現状では最大限の手続きを経た、信頼に足るものと言えるのではないでしょうか。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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