年々高まる「ビジネスと人権」への関心――下田屋毅の欧州CSR最前線(35)

■ 目立った市民社会の訴え

2013年のビジネスと人権フォーラムの本会議(12月3・4日)はセッションの方法が改善され、基本的に同じフォーマットで、モデレーターの監督の下、会場の参加者全てに発言権があり、その時間が確保されるようになった。

これはマルチステークホルダーダイアログの質を高めるために、参加者すべてが対等な立場で参加し発言できるようにしたものである。

パネリスト、コメンテーター、および会場からの発言者は、時間制限が課され、パワーポイントやその他の視覚的なプレゼンテーションは許可されていない。

会場の異なるステークホルダー・グループの参加者すべてに発言権があり、1)各国政府、2)企業、3)市民社会組織、の3つのカテゴリに大きく分けられた。

各テーマ別セッションでは、パネリストの報告の後に、これらの3つのステークホルダー・グループが順番に発言の機会が与えられた。特に市民社会組織の発言が活発であった。

印象的だったのは、先住民族が、多国籍企業による天然資源開発に関わる土地の収奪・環境汚染による人権侵害について伝え、国連のワーキング・グループに状況確認の為のサイトビジットを訴えるという場面が多く見られたことだ。

市民社会組織は、プレ・デーとなる12月2日に「市民社会ダイアログ」というサイドイベントを開催、本会議において効果的にそして効率良く自分達の訴えが届くように準備をしている。

これは、2012年の第1回のフォーラム全体として、方向性がなく効果的なものではなかったこと、さらに国連のワーキング・グループが、国連システム内で決定力と影響力に欠け、国家レベルで発生している人権侵害に影響を及ぼすことができないと市民社会組織は感じていたことから、これらを改善するべくフォーラム前より準備してきたという経緯がある。

市民社会組織の大方の意見としては、指導原則でいう国が人権の保護の役割を果たしていないということ、法整備が整っていないことが問題だとし、そのため企業の自主性に任せられているために取り組みが進んでいないと指摘している。

そのため指導原則についての条約・法規制による拘束力を強め、条約・法令違反に対する制裁を行うことにより、企業の人権配慮が進むことを望んでいるようだ。

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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