年々高まる「ビジネスと人権」への関心――下田屋毅の欧州CSR最前線(35)

■ 国家での取り組み

指導原則に則った国家の取り組みだが、世界の各地域の中で、国内行動計画を発表しているのは英国のみで、2013年9月4日、「グッドビジネス:国連ビジネスと人権に関する指導原則の実践」を発表している。

これは、世界で初めて指導原則の実践を国家の行動計画として定めたもので、英国の今後2年間の行動計画が定められている。

計画は、全ての英国政府の省庁に適用され、英国内にある全ての企業に取り組みを促すものだ。フォーラム開催時、指導原則に則り国内行動計画を発行しているのは英国だけであり、今回のフォーラムにおいても、その行動計画の取り組みについて英国政府代表が主張していた。

国家行動計画の取り組みが進んでいる地域はEUで 「欧州委員会CSRについてのEU新戦略に関するコミュニケーション」の2011~14の行動計画の中で、全てのEU加盟国に指導原則の導入についての国内の行動計画に入れ込んでいる。

欧州理事会は2012年、EU内での国家行動計画の策定について推進を後押しするために、全てのEU加盟国に2013年末までに指導原則の実践に関する国家行動計画の開発について要求、欧州委員会はEUレベルでの指導原則の導入に関する計画を立てることを約束した。

英国以外のEU加盟国の中では、オランダ、スペイン、イタリア、フィンランド、デンマークが、国内行動計画の発行に向けて準備をしており、2013年中、あるいは、2014年に発行予定である。

EUはその他、「ビジネスと人権に関する指導原則」の実践に関わる施策として、既に3つの重要な業界、1)石油&ガス、2)情報通信技術(ICT)、3)人材紹介会社の企業向けに「人権ガイド」を発行、また、中小企業にも人権についての配慮を促すために「中小企業のための人権入門ガイド」を発行している。

米国政府はまだ指導原則を導入するための国家行動計画ついて正式に特定のプロセスまたはその計画を開発するための明確な意思を発表していない。

しかし、今回のフォーラムでは、米国政府代表からミャンマーにおいて50万ドルを超える投資等をする米国の個人・企業については人権、労働者の権利、汚職、環境方針とその手順について報告書を提出することが2013年6月より法令により義務付けられていることの報告がなされている。

■ 2014年は行動の年

ビジネスと人権フォーラムの閉会式は、メアリー・ロビンソン氏(前アイルランド大統領、元国連人権高等弁務官、メアリー・ロビンソン財団:気候正義・代表)の辞が印象的だった。

彼女は、2014年を、人権・気候変動への対応の行動と実践の年とすることを、各国政府、企業、市民社会に対して、強く嘆願し、会場から大きく共感を得た。

日本からの参加は前述のとおり数名で存在感がなかったのは非常に残念なことだが、この第2回ビジネスと人権フォーラムは、国レベルでの活動状況、企業の推進事例や、企業に関わる人権侵害の現状把握、そして、それに対する市民社会側の意見を伝える場として機能し、マルチステークホルダーの対話ができる実践的で意義があるものと感じた。

次回2014年のフォーラムでは、自社の指導原則の取り組みを発表する場として、また世界での企業に関わる人権の議論を肌で感じ、自社の実践にさらにつなげる機会として、是非足を運んでいただければと思う。

下田屋毅(しもたや・たけし):
在ロンドン CSR コンサルタント。大手重工業会社に勤務、工場管理部で人事・総務・教育・安全衛生などに携わる。新規環境ビジネス事業の立上げを経験後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。欧州と日本の CSR の懸け橋となるべくCSR コンサルティング会社「Sustainavision Ltd.」をロンドンに設立、代表取締役。

shimotaya_takeshi

下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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