「なぜ私がこの活動をやるのか。なぜ会社としてこの活動を推進しているのか」、「背景になっている社会・環境課題は何なのか」、「会社とその課題との関係はどこにあるのか」といった「土台」に関する理解がないままに社員の積極参加を望むのは難しい。理屈ばかりを並べ立てて気軽な参加ができなくなっては本末転倒であるが、やはりある一定の納得感は必要だろう。
経営コンサルティング会社のデロイトは、社員参画型の社会貢献活動として、若者への教育支援に関する取り組みをグループで実施している。資金援助を行うだけでなく、グローバルの各拠点で社員がその専門性を生かし、NGOなどと協働で教育支援プログラムを企画・実施している。社員が参画しやすい仕組みも充実しているが、最も注目したいのは、その社会貢献活動の目的や、背景にある課題認識を、広く社内外に積極発信している点である。
「グローバリゼーションや技術の進展、社会経済環境の変化などに伴い、知識労働が重視されてきている中で、若年層に対する教育の内容と実社会で求められる能力の間にギャップが生じている」「デロイトは、グローバル・ネットワークを通じて、21 世紀経済を担う人材の育成に向け、まだ十分な教育サービスを受けられていない若者の教育を支援していく」とし、グローバル課題に対して、各拠点でのローカルな取り組みを通じてアプローチしていく企業姿勢を明確に示している。
そのほか、他の教育や若者のスキル開発に関する社会貢献活動と何が違うのか、自身のキャリア開発にどう関連するのか、といったことについても丁寧に説明している。自社のボランティア活動がこれだけ明確に定義されていれば、少なくとも社員にとっては「なぜ私がこの活動を行うのか」という疑問がわいてくるようなことはないだろう。
ボランティア活動の推進にあたっては、社員参画のための仕組みももちろん大切だが、まずは「何のためにやるのか」というシンプルな問いに向き合い、会社としてその活動を行う意味をきちんと発信していくことが重要である。
【ひらい・かよ】大学院卒業後、経営コンサルティング会社にて、5 年間大手小売、メーカーなどの業務改革に携わった後、イースクエアに参加。企業のCSRビジョン・ロードマップ策定、それに続く活動評価ツールの策定、社内研修の実施といったプロジェクトを手掛けるとともに、企業向けCSR 情報プラットフォーム「CSR コンパス」のコンテンツ開発に従事。社会貢献活動の戦略策定支援などにも力を入れている。
(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第8号(2013年5月7日発行)」から転載しました)
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