イノベーション戦略としてのCSR 経営、欧州を例に【戦略経営としてのCSR】

異なる価値観に触れ、常に自分事化を

いつの時代でもソーシャルイノベーションの成功例に共通するのは、革新的な行動のきっかけを起こし、周囲から変人と思われる発想力と大胆な行動力を持つ人の存在である。あり得ない問題解決策を考えるからこそイノベーションが生じるのだ。そのような人は組織内外に関係なく、どこにでも存在するが、部署ごとの課題解決への取り組みだけでは現れにくい。社内の承認手続き制度などが、斬新な発想を阻むという側面があることも否定できない。

大事なことは社内外にネットワークを構築し、情報を共有することで、自分とは異なる価値観や出来事に触れ、それらを常に自分事として捉える習慣を持つことである。そして、そこからイノベーションのきっかけとなる着眼点を掴み、常に新しい解決策を模索していく習慣を持つことだ。

なお、課題解決に当たっては企業が自前で完結しないことも重要だ。政府関係者やNGOを巻き込み、如何に多様なステークホルダーと解決のために協力しあえるかが成功要因のカギを握る。多様なステークホルダーを巻き込むことで、①外部視点で新しい問題解決の糸口をもらうだけでなく、②検討するプロセスの透明性を確保することにより説明責任を担保し、さらには、③ 政府との連携により、より効果的な解決策を模索できるからである。

統合報告書を作成する際も、まずは、自社の事業活動が社会に対してどのような価値を作っているのかを社内で話し合うことが前提だ。そのうえで、想定される報告書の読み手にとって、プロセスインディケーター、インパクトインディケーター、パフォーマンスインディケーターの3 つの観点から、どのようなKPIの設定が期待されているのか考えることが必要である。そして外部のステークホルダーとの対話と議論の中でさらに模索し、その結果を文書化したものを情報開示することが期待される。これらのCSR の推進による外部のステークホルダーとのインターアクションが、組織のイノベーションを起こすきっかけにもつながる。

【おおくぼ・かずたか】新日本有限責任監査法人シニアパートナー(公認会計士)。新日本サステナビリティ株式会社常務取締役。慶応義塾大学法学部卒業。教員の資質向上・教育制度あり方検討会議委員(長野県)。大阪府特別参与。京丹後市専門委員(政策企画委員)。福澤諭吉記念文明塾アドバイザー(慶應義塾大学)。公的研究費の適正な管理・監査に関する有識者会議委員。京都大学・早稲田大学等の非常勤講師。公共サービス改革分科会委員(内閣府)ほか。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第4号(2013年1月7日発行)」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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