[書評]都市と田舎をいいとこ取りする暮らし方 『フルサトをつくる』

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都市から地方への移住に憧れを抱いても、「地方に骨を埋める覚悟はない」と諦めている人は多いだろう。骨を埋める覚悟がなければ移住はできないのか――。先頃刊行された『フルサトをつくる 帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方』(伊藤洋志・pha著、東京書籍刊、税込1512円)は、居住における「都市か地方か」という二者択一を超える「多拠点居住」という暮らし方を提案している。(オルタナ編集委員=斉藤円華)

『フルサトをつくる』表紙

『フルサトをつくる』表紙

多拠点居住とは、とりわけ都市住民においては「フルサト」をつくることだ、と本書は定義する。フルサトとは、例えば「いざとなったらそこに帰れば、心身ともに健やかに生活が送れ、競合他社とか機会損失とかそういう経済用語がさほど通用しない環境があるところ」(本書7ページ)のことだ。

つまり、衣食住のコストが低い地方の過疎地、すなわち里山がフルサトの適地ということになる。地方には手を入れれば住める空き家が多くある。おいしい水と食物、豊かな自然、いたる所にある温泉・・・。自分と相性が良さそうな場所を見つけ、そこで住まい、つながり、仕事その他を作る方法を、本書では著者の実践をもとにわかりやすく展開している。

都市で住宅ローンを組んで家を買う暮らしは、リストラや大災害のリスクに対して脆い。一方で地方の暮らしも、濃密な付き合いやしがらみが息苦しい時がある。しかしフルサトがあれば、都市生活に疲れたら避難できるし、しがらみから距離を置きたい時には都市に戻ることも可能だ。そもそも過疎地は人が離れて住んでいるので「田舎ほど慣習の力が強くない」(同15ページ)という。

インターネットが発達し、マイカーがあれば山奥でも移動には困らない今の日本は、フルサトをつくる暮らし方にとっては極めて有利だ。都市と地方を行き来することで、それぞれの良さも見えてくる。何より著者が、フルサトづくりを通じて住まいや仕事、文化を楽しく生み出している様子が魅力的だ。人は「一所懸命」でなくても生きられるのである。

2014年7月9日(水)9:00

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