CSV とは何か【戦略経営としてのCSR】

このことは、観光の活性化へのアプローチと似ている。史跡や遺跡、特産品をいくら宣伝しても一過性の客を引き付けるだけで、継続的な集客には結び付かない。京都や沖縄のように圧倒的な魅力のあるところは別だが、「おいしい」魚や野菜、「きれいな」景色をいくら謳っても、日本中どこでも似通った特徴があり、地域の差別化が図れない。

これからの観光誘致に必要なことは、史実や遺産、特産品に頼るのではなく、未来における自分とのかかわりを示し、リピーターを生み出すことだ。お伊勢参りやご利益のある神社に絶え間なく人が訪れるのは、訪れる者に対して未来を提示しているからだ。プロポーズを思い浮かべてみてほしい。自分の良さをひけらかすよりも、相手の未来の幸せを約束することの方が魅力的だ。

各企業のCSR報告書はどうか。読み手を魅了し価値を高める報告書とはどのようなものか。たとえ、立派な製品やサービス、現在までの取組みが羅列されていても、元々興味のない人には魅力的なものではなく、同業他社との差別化にはなりえない。むしろ、新しい社会の価値を示し、それを担っていく企業としての覚悟を示した方が魅力的に映り、それが企業価値となる。

企業の社会に対するアプローチが劇的に変化している具体的な事例としてトヨタのアクアがある。「水」をテーマにした地元の自然環境を保護・保全する地域社会貢献活動を全国50カ所で地域の人とともに展開することで、これまで車に関心が薄かった若年層の関心を喚起した。

その結果、販売開始後わずか1 年でプリウスの販売台数を抜いた。従来との大きな違いは、商品そのものの価値で売ったのではなく、社会に対して新しい価値を示すことを通して潜在的な需要を喚起したことであり、結果、売り上げへの寄与に成功した。

CSV戦略の推進および統合報告書の作成では、経営者自らが、社会に対する新たな価値を提示し、それを事業の中で実現していくプロセスを示すことが求められる。単に売り上げ目標を設定するのではなく、将来あるべき社会の価値を模索し、それを実現していく方策を具体的に提示しなければならない。

【おおくぼ・かずたか】新日本有限責任監査法人シニアパートナー(公認会計士)。新日本サステナビリティ株式会社常務取締役。慶応義塾大学法学部卒業。教員の資質向上・教育制度あり方検討会議委員(長野県)。大阪府特別参与。京丹後市専門委員(政策企画委員)。福澤諭吉記念文明塾アドバイザー(慶應義塾大学)。公的研究費の適正な管理・監査に関する有識者会議委員。京都大学・早稲田大学等の非常勤講師。公共サービス改革分科会委員(内閣府)ほか。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第6号(2013年3月5日発行)」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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