知られざるカンボジアの「日本人社会起業家」群像【CSRフロンティア】

まず、地雷を除去した畑にハーブを植え、アロマ製品の生産・販売をしているクルクメールボタニカル社の篠田ちひろさん。明るくさわやかな青山学院大卒の28歳。もう1人、アンコール遺跡の保全と周辺地域の持続的発展のための人材養成支援機構(JST)というNGOで働く吉川舞さん。こちらは早大卒の27歳。現地では、移住したこの2人に、東京の村田さんを加え元気印「3人娘」と呼んでいるそうだ。若い女性が肩肘張ることなく、自然に現地に溶け込み、地に足のついた開発と発展に寄与している姿には感動さえ覚える。

遺跡といえば忘れてならないのが「マダム・サチコ」こと小島幸子さん。おいしいと評判のアンコールクッキーを製造している社長さんである。元日本語教師からの転身とかだが、カンボジアが好きで好きで仕方ないらしい。

女性ばかりかと思いきや、どっこい男性も負けてはいない。農園でコショウを生産し、販売しているクラタ・ペッパー社長の倉田浩伸さんは、亜細亜大学学生の時、NGO、JIRAC(JHP・学校をつくる会の前身)のボランティアでカンボジアを訪れた。帰還難民の支援に携わったが、カンボジアには産業がない、なんとかしてとの声に応えて、コショウの栽培に取り組み成功させた人。現在43 歳である。おじさんも頑張っている。64歳の森本喜久男さん。京都で手描き友禅工房を主宰していたが、タイにあるラオス難民キャンプの織物学校でボランティアを経験したのを機にタイの伝統織物に触れる。その後、拠点をカンボジアに移し、カンボジアの伝統的な織物技術の復興に取り組み始めた。現在、IKTT(クメール伝統織物研究所)の代表を務めている。

こういう人たちを見ていると、政府開発援助(ODA)も大事だが、国づくりも結局は人と人のつながりこそが大切なんだと思えてくる。そして、彼らに共通しているのは、その土地の人たちが守ってきた伝統や文化に対する尊敬の念である。経済的にみれば、発展途上かもしれないが、くったくのない笑顔、家族そろっての団欒、村中で助け合おうという共助の精神、そういったものへの共感も間違いなくある。その魅力が皆をひきつける。日本から移住してまでも、そこで生きようと思わせるのである。カンボジアへ行ったら、学生には、そういうところをよく見てきてほしい。そう願っている。

【はらだ・かつひろ】日本経済新聞社ではサンパウロ、ニューヨーク両特派員。国連、NGO、NPO、社会起業家のほか、CSR、BOP ビジネスなどを担当。日本新聞協会賞受賞。2010 年明治学院大学教授に就任。オルタナ・CSR マンスリー編集長。著書は『CSR優良企業への挑戦』『ボーダレス化するCSR』など。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第11号(2013年8月5日発行)」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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