「プロジェクトアウト型」のダイアログを目指して【戦略経営としてのCSR】

「コンセプトオリエンテッド」へ

このことは観光政策に例えると分かりやすい。いくらコンテンツで勝負しても陳腐化しやすく、観光客側から見ると「なぜその地域なのか」という違いがわからりづらい。一方、広告宣伝による観光客誘致は、一過性の効果しかもたらさず高機能化・低価格の消耗戦になる。それに対して、その地域と一定の関係値ができた観光客とは、長期的・継続的な関係ができる。機能ではなくその地域の魅力で観光客を引き寄せられれば、誘致のための高コスト構造を回避できるだけでなく、他の地域との差別化に繋がる。過去を見せる観光地巡りではなく、その地域のコンセプトを共有しながら地元と観光客が共に地域の課題解決策を模索していくことで、未来に向けた取り組みを共有し、観光客にとってその地域が自分事となる。そして、長期的・継続的な関係が構築されることで、人々が頻繁に行き来するようになり地域の活性化に繋がっていく。

ここで大切なことは、「コンテンツオリエンテッド」から「コンセプトオリエンテッド」ということだ。どのような施策を実施するかというコンテンツありきではなく、ステークホルダーと共通の価値(課題)を前提に、一緒になって解決策を模索していくことで、ステークホルダーとともにプロジェクトアウトしていくことが期待されるのだ。

すなわち、ステークホルダーダイアログとは、単にステークホルダーの意見を聞くという「マーケットイン」的な発想ではなく、共通のコンセプトを前提に、ステークホルダーと共に未来に向けて新しい課題の解決策を模索していくプロジェクトアウトの取り組みが期待される。ステークホルダーを巻き込みながら解決策を模索することで、ステークホルダーにも自分事化してもらい長期・継続的な関係の構築を通して、企業価値の向上に繋げていく。

なお、これらのプロセスを透明化することもカギになる。結果だけでなく取り組み自体が社会の共感を呼び価値をもたらす。プロジェクトアウトしていくプロセスを透明化し、情報発信することで、社会的な評価を確立し強固なブランドを構築していく。

【おおくぼ・かずたか】新日本有限責任監査法人シニアパートナー(公認会計士)。新日本サステナビリティ株式会社常務取締役。慶応義塾大学法学部卒業。教員の資質向上・教育制度あり方検討会議委員(長野県)。大阪府特別参与。京丹後市専門委員(政策企画委員)。福澤諭吉記念文明塾アドバイザー(慶應義塾大学)。公的研究費の適正な管理・監査に関する有識者会議委員。京都大学・早稲田大学等の非常勤講師。公共サービス改革分科会委員(内閣府)ほか。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第9号(2013年6月5日発行)」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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