[サプライチェーン]マクドナルド鶏肉事件の教訓――安易なアウトソースは命取りに

まず、仕入れ先の切り替えを即座にできるわけがないこと、例え数社の仕入れ先を常時保有していてもスイッチングコストを無視した言い方は消費者に対し失礼だ。第二に、仕入れ前、社員を現地工場に派遣し安全管理体制を点検したというが、実際にどういう機能部門の社員が、どういう頻度で監視し、モニターしているのか。第三に、商品の発売前にも取引を仲介した伊藤忠商事が品質を確認したというが、商社のプロとしてのスキルや品質保証のプロが実際に行ったのか知りたい。品質チェックや生産管理までも第三者機関に丸投げでないことを祈るばかりだ。

中山社長曰く、かなり厳しくチェックした中で起きたのでショックは大きいと述べる一方、先方の原料のチェックまではしていない由。ここから明確になったのは、原料のチェックは誰かに丸投げかも知れないということだ。

自動車業界では、ことあるごとに兵站(logistics)が伸びきっていると言われてきたが、最適な兵站とは軍事から来た発想で、これは平時において産業取引で完璧に通用する考え方だ。兵站(Military Logistics)は戦闘地帯から後方の、軍の諸活動・機関・諸施設を総称したものであり、戦争において作戦を行う部隊の移動と支援を計画し、実施する活動を指す用語だ。

これには物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれる。兵站は一般の軍事理論では補助的なものではなく主要な地位を占め軍事作戦の遂行を基礎づけるものであると受け止められている。

「戦争のプロは兵站を語り、戦争の素人は戦略を語る」という格言はそのような兵站の重要性を端的に強調したものであると言える。また「必要なものを」「必要な時に」「必要な量を」「必要な場所に」はロジスティクスの要諦であり、兵站任務を円滑に遂行する作戦地域と兵站基地との交通上のつながりを維持するために数理的、物性的、情報的な管理がキーとなる。

ここでは完全に商取引の発想と合致するが最大の差異はリスクに対する受け止め方であろう。複数の兵站基地とそれらを相互に接続する道路、鉄道、水路、海路、航空路で構成される後方連絡線の結節点となる兵站基地は生産・交通の要所に平時から設置される戦略兵站基地だ。

話は逸れるが国内取引よりも海外取引、グローバルサプライチェーンを担う人材は戦争用語である兵站と戦略について今一度見直してみても良いのではなかろうか。但し、筆者は戦争を是とするものでないことを断っておく。

(上原 修=うえはら・おさむ)特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会理事長、ESSECビジネススクール特任教授、法政大学経営大学院兼任講師

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..