企業とトレーラーハウス宿泊村【CSRフロンティア】

会場には、女川町長、町議会議長、商工会会長はもちろん、カンバーランド、東北共益投資基金の関係者、さらには、このプロジェクトにかかわった政府、県、ボランティア団体など大勢が詰めかけ、交流の輪ができた。おかげで外の寒さにも関わらず、会場は温かい空気に包まれていた。

あの大津波は多くのものを奪った。しかし、近代文明への反省、原発の在り方など多くの教訓も残した。何より、人のつながり、コミュニティの大切さを教えてくれた。

自治体も頑張った。ボランティアも頑張った。しかし、今回、その活躍ぶりが目立ったのは、CSR(企業の社会的責任)意識の高い企業ではなかったか。つまり、いま、この女川のエルファロにあるものこそ、皆が、津波に負けずに再生させようとした夢であり、日本という国が、これから作り上げていかなくてはならない希望に違いない。

この町で、ひとつ聞かなくてはならないことを抱えてきていた私は、町に詳しそうな老人にさりげなく切り出してみた。

「津波で流され、廃墟と化した女川の繁華街においしい焼肉屋さんがあったそうですね。『幸楽』というお店ですが」

その焼肉店は明治学院大学での私の教え子の実家だった。母親の死亡が確認された時、その学生は母の名が載った新聞記事を手に研究室にやってきた。「先生、長い間行方不明だった母の遺体の身元が確認されたんです。ようやく、私たち家族の元に帰ってきてくれました」と寂しそうに笑った。父親は無愛想だが、気のいい働き者の母のおかげで店は繁盛していたそうだ。母が死んで店はもう終わりだと、学生は泣いた。

「ああ、幸楽、もちろん、知っているとも」と老人は目を細めた。

「おかみさんが亡くなったそうで、本当に残念ですね」

「もう閉店かと思っとったら、何とあのオヤジが別の場所で店を再開しよったんだ。相変わらず愛想はよくないが、味がいいからな。人気だべさ」。被災地にはいい話がいっぱいある。

【はらだ・かつひろ】日本経済新聞社ではサンパウロ、ニューヨーク両特派員。国連、NGO、NPO、社会起業家のほか、CSR、BOP ビジネスなどを担当。日本新聞協会賞受賞。2010 年明治学院大学教授に就任。オルタナ・CSR マンスリー編集長。著書は『CSR優良企業への挑戦』『ボーダレス化するCSR』など。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第5号(2013年2月5日発行)」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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