労働者の権利を求める活動家たちは、バングラデシュの約4500工場の安全衛生管理体制を改善するために資金を拠出するよう業界に要請している。
ワシントンに本拠をもつ監視団体である労働者の権利に関するコンソーシアムによれば、工場の安全衛生管理体制を改善することでかかる経費は、衣服1 着あたりで10セント、5年で30億ドルになる。たいした額ではないが、企業が管理体制の改善を実行に移すか否かは不明である。
実際に多くの場合、衣服の価格はそれほど安価ではない。デニムのジーンズの小売価格が10ドルで、流行のTシャツは3ドルということは、コストを抑え続けなければならないということだ。コストを抑えるために、企業は中国といった急激な値上がりをしている国からバングラデシュに製造工場を移設する。
しかし、多くの場合、低コストの結果が安全衛生管理の問題につながっている。南アジア諸国は熟練労働者と英語が話せる管理職を売りにするが、工場安全関連法はあまり遵守されていない。しかし、バングラデシュへのシフトにより利益拡大につながることは確かである。
ブルームバーグによれば、バングラデシュの既製服のバイヤー大手の中ではH&Mが過去10年間、50%以上の売り上げ総利益を計上している。
しかし、投資家が心配するのも無理はない。企業やブランドが、危険な環境で労働者を搾取している工場や現代版奴隷と関連づけられたら、一部の消費者の信頼を失う可能性がある。また消費者が安価な服の実際のコストを計算し始めれば、他のショップで買うことを選択するかもしれない。
人々の感情への訴求力や信頼性もブランド価値の一部であり、もし企業やブランドが、バングラデシュのような最も開発の遅れた国での事業においても社会的責任を果たせなければ、後々コストダウンのために自社が払った高額な代価に気づくかもしれない。投資家にとっても注意が必要なことは間違いない。
高橋佳子(CSR Asia シニア・プロジェクトマネージャー) 監訳
【リチャード・ウェルフォード】CSR Asia 創設者で経済学博士。20 年にわたりCSR や環境管理を研究。香港大学教授を定年退職後、2010 年にアジア工科大学(AIT)と共同事業であるアジア初のCSR 修士課程を創設。国際ビジネス、環境管理、労働人権、企業の社会責任についての著書多数。
(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第6号(2013年3月5日発行)」から転載しました)
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