式年遷宮を考える【戦略経営としてのCSR】

人材育成の観点からも、技術継承に最適なシステムでもある。20年を一つの世代サイクルと考え、10代で見習いとして働き始め、30代から40代では中心的な役割を果たす棟梁として貢献し、50代を過ぎると後見として後輩指導を行う。形式的・表面的な方法を伝承するのではなく、ゼロから立て直すことで、仕組みを構造から理解し、核となる技術そのものを伝承する。家電製品を分解できても、仕組みの構造的な理解なくして、組み立て直すことは容易ではない。

憲法や政治システム、法律、企業内ルールのいずれも、制定時はその時々の社会の価値観や環境を前提に一定の合理性があった。しかし、時代とともに社会の価値観や環境が大きく変化し、システムやルールが環境にはそぐわなくなる。にもかかわらず、一度システムが出来ると、よほどのことがない限り自発的に変えられない国民性ゆえに、古い仕組みを引きずり、一部の既得権益者を中心に回る社会システムが保持される。世界を巡る環境が大きく変化しても、内向き志向のガラパゴス化現象に陥り、世界から取り残される歴史を繰り返してきた。

これは組織内部でも同じだ。制度導入直後は、制定趣旨や背景などを踏まえ、柔軟な運用がなされるが、担当者を引き継いぐにつれ、形式的なことだけが伝承され、次第に運用が形骸化し、組織全体が硬直化する。最終的にはルールさえ守ればいいという、無責任な思考停止が組織風土としてはびこる。

どんなに澄んだ水でも長く置けば腐る。回避するためには一定の循環が不可欠だ。そこでは、外形的なシステムをどうするかではなく、人間の精神の荒廃を回避するために外形的なシステムを如何に変えられるかがカギとなる。外形システムという形式を変えることではなく、心と業を如何に伝承できるか。それを体現しているのが、伊勢神宮の式年遷宮だ。

劇的な環境変化に見舞われた我が国が持続的に発展していくためには、式年遷宮が目指す「常若」の精神を伝承し、常に若い気持ちで明日に向かってイノベーションを起こすことである。そして、繰り返し再生することで、みずみずしいままに「永遠」を目指すことこそが日本の社会に根差すCSRだ。

【おおくぼ・かずたか】新日本有限責任監査法人シニアパートナー(公認会計士)。新日本サステナビリティ株式会社常務取締役。慶応義塾大学法学部卒業。教員の資質向上・教育制度あり方検討会議委員(長野県)。大阪府特別参与。京丹後市専門委員(政策企画委員)。福澤諭吉記念文明塾アドバイザー(慶應義塾大学)。公的研究費の適正な管理・監査に関する有識者会議委員。京都大学・早稲田大学等の非常勤講師。公共サービス改革分科会委員(内閣府)ほか。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第13号(2013年10月5日発行)」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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