農林水産業の産業力強化こそが地域活性化のカギ【戦略経営としてのCSR】

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大久保 和孝(新日本有限責任監査法人CSR推進部長)

農業に就業したいと考えている若者は多くいる。しかし、実際に就農している数は少なく、就農人口は年々減少している。一般的に、その原因は農家の所得の低さとされているが、本当にそうなのだろうか。震災後、大企業を辞めてまでも復興事業に取り組んでいる若者が数多くいる。

就農者数が伸びない主要因は就業環境にあると考えられる。多くの農作業の現場では、労使協定を締結することはおろか、作業マニュアルやシフト表もなく、OJT(オンザジョブトレーニング)を前提にした精神論的な要素が大きい。「仲間意識」から不要な残業をせざるを得ないことも多い。経営者から、時にはパワハラといわれかねない叱咤激励を受けることも日常茶飯事だ。非効率な現場を改善しようにも「経験不足」を指摘され、提案すらしにくい環境であることも多い。具体的なキャリアプランも見えず、低収入で、過酷な労働環境に置かれるとあっては、就農者が少ないのは当然のことだ。

こういった素朴かつ本質的な問題を解決できれば、農林水産業を魅力的な産業とし、生産力を高めることも可能になる。決して難しいことではない。日々の作業内容を文書化・標準化し、作業マニュアルを作り、分担を決め、シフト表を作成するだけでも現場の労働環境は劇的に変化する。作業マニュアルができることで、キャリアプランが見え、従事者のモチベーションも高まる。

農作業の現場には、無駄で非効率な作業が多く存在するが、企業では当たり前の5S運動を取り入れることで、農具を探すなどの無駄な作業を大幅に改善できる。人件費が生産コストの3分の1を超えていることを考えれば、結果としてコスト削減にも寄与し、収益性が高まるのは当然のことだ。

農林水産業は無限の魅力ある産業

地方の雇用確保という社会的な課題の視点から考えると、従来のような工場誘致では限界がある。雇用を確保し地域経済を活性化するためには、地域にしかない恵まれた自然環境を活かした農林水産業の生産力強化が不可欠だ。労働環境の改善や効率的な生産により、収益性が高まれば、農林水産業は魅力的な産業になる。また、労務管理を取り入れることで適材適所の人員配置を行うことができ、社会的弱者を含め、地域での雇用を生み出し、地域経済の活性化にもつなげられる。その結果、6次産業化への期待も高まり、農林水産業を中心とした産業のすそ野が広がる。

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大久保 和孝

株式会社大久保アソシエイツ代表取締役社長(公認会計士・公認不正検査士)。慶應義塾大学法学部卒。前EY新日本有限責任監査法人経営専 務理事(ERM本部長)。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、商工組合中央金庫取締役、セガサミーホールディングス監査 役、LIFULL取締役、サーラコーポレーション取締役、サンフロンティア不動産取締役、武蔵精密工業取締役(監査等委員)、ブレイン パット監査役、他多数の企業等の役員に就任。

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