機関投資家向け企業報告の新たなる地平[中畑 陽一]

■ ARは統合報告へ進化するか

その伊藤レポートでも期待されている企業報告の新しい形である「統合報告」については、2013年末に長期的な企業価値創造プロセスを簡潔に表現した「統合報告書」の国際的なフレームワーク(http://goo.gl/jFyo7J)が発表され、そのさらなる進化を促しています。

これは短期・財務情報中心の報告、分断された報告から、長期の包括的な企業の価値創造を報告するスタイルへのシフトであり、今まさに報告システムの変容のただなかにあります。

ここで述べられている「価値」や「資本」の概念は、従来の財務的なものだけではなく、従業員や知的財産、ブランド、地域との関係、環境資源などのいわゆる「非財務情報(ESG)」にまで拡張されています。

ここで注視すべき観点は、アニュアルレポートの活用は企業サイドだけの問題ではなく、投資家サイドもどのように非財務情報を長期投資に活かせるか悩んでいるという事です。これは、投資家の「今」のニーズだけに応えてアニュアルレポートを作成していると、逆にダイナミクスに欠ける短期志向に陥る可能性があるということです。投資家とのコミュニケーションを前提としながらも、広くステークホルダーの声に耳を傾けながら、その企業ならではの価値創造を伝えていくことが求められてきています。

■ 当たり前になりつつある「いい企業」への投資

企業情報をアニュアルレポートで多角的に表現していく機運の高まりは、社会的責任投資として成長してきたESG(環境、社会、ガバナンス)関連情報の投資への取り込みが、年金基金やアクティブ運用投資家といった主流の機関投資家に広がるいわゆる「ESGのメインストリーム化」によって促進されています。

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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