CG の方向性、国際学会で白熱議論(2)【企業と社会の関係】

立石文雄氏(オムロン)からは、経営層が示す企業理念の重要性が指摘されました。企業理念は良き社会人・企業人としてのよりどころであり、経営の強力な武器=求心力となること、求心力が強いほど各カンパニー・従業員・顧客にまで浸透し、会社の風土・文化を形成することが指摘されました。

オムロンでは2007 年より、役員が国内外の現場を訪問して社員と直接対話する「企業理念ダイアログ」を実施しており、これがCG の強化策としても機能しています。同社では、監査役設置会社のもと委員会設置会社の良さも取り入れた独自のハイブリッド型CG 体制を追求し、今後は財務的な資産だけでなく非財務的な「見えない資産」を重視しながら企業価値の最大化を図っていくことが報告されました。

そしてグレゴリー・ジャクソン教授(ベルリン自由大学)は、日本企業のCG を巡る1980 年代からの変遷を概観した上で、今後のあり方について問題提起を行いました。

バブル経済崩壊後、日本的経営や短期的利益を求めない「寛容な資本」のあり方が変わり、CG に関する議論が盛んになったこと、1990 年代以降はCSR の議論も加わってきたこと、どの企業にも適用できるようなベストプラクティス/明確なモデルは存在しないことが指摘されました。

今後は、経営者―従業員の垂直構造よりもむしろ水平的なチェック・バランス・システムによって説明責任を果たすことが重要となり、日本型と欧米型のハイブリッド型CG を
それぞれの企業が追求することが求められるのではないか、という考えが示されました。

■今後のCG のあり方と課題に関する議論
パネルディスカッションでは次のような議論が行われました。かつてはアメリカ型か日本型のいずれかに収斂していくと考えられていましたが、日本企業の実態をみると株主との関係については資本市場との関係が強まったものの、雇用慣行や取締役会のあり方は従来とあまり変わっていません。

ハイブリット化が安定的なものか、経過的なものかは不明確ですが、安定してきていると考えられます。ただし、ハイブリッド化には調整コストがかかる、経営の長期性が損なわれるという課題もあります。報酬・人事を、経営者ではなく中立的立場の人々が決めることに、どこまで経営者が本気で取り組むかが鍵となります。

これまでは海外投資家による圧力が大きな促進要因でしたが、企業にとっても社会にとってもプラスの価値を生み出していくCSR の考え方も促進要因になってきたと言えます。いかに株主の長期的コミットメントを得ていくか考えていくことが重要です。

(この記事は株式会社オルタナが2013年12月5日に発行した「CSRmonthly 第15号」から転載しました。)

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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