[寄稿]「格差」は人ごとではない――オルタトレード研究会活動報告

■ケアの正義とグローバルな正義(第3回研究会報告)

南アフリカ北ケープ州で生産しているルイボス茶のラインナップ
南アフリカ北ケープ州で生産しているルイボス茶のラインナップ

第3回オルタトレード研究会では、支援を正当化する「正義」について議論しました。川本氏(東京大学)からはケアの正義について、大野氏(立命館大学)からはフェアさに関する分析について、それぞれ報告がありました。(京都大学農学研究科研修員=小林 千夏)

正義がどのようなものかという骨組み(concept)の合意はすでにあるが、どんな行為=支援が正義たりうるかという構想(conception)は、現代社会においてなお議論の的である。途上国への開発支援は、具体的な水準、内容、達成目標について多岐にわたり、その「正しさ」や「公正さ」を評価する尺度もはっきりとしません。

川本氏は、この課題に対して、現代の支援の考えかたに「ケア」行為が欠けていると指摘。ケアは女性ジェンダーが負担すると見なされ、男性中心主義的な正義観では軽んじられてきました。

しかしフェミニズムが指摘するように、正義とケアは両者とも支援に必要です。川本氏は「ケアの正義」という捉えかたで「正義かケアか」という二者択一の議論を乗り越えようと提起しました。

これまでの正義が、何が正しい行為であるかを判断することに重きを置くのに対して、ケアとは、相手に配慮し、苦しみに寄り添い、声を聴く行為である。支援される側の他者としての声を受け入れ、多層化していくことが、アマルティア・センが批判する「超越論的な制度偏重主義」を脱するために必要です。

一方、大野報告は、フェアトレードの枠組みをグローバル正義論の観点から評価しようと試みました。その結果、生産に従事できる労働者に分配をおこなう点、市場制度や為替制度自体に内包される問題に取り組めない点、また、フェアトレードの掲げるケイパビリティの向上が金銭ベースでの配分を基礎とする点や、フェアトレードの流通に参与できない社会の構成員へ分配が行き届く保障が低い点――にフェアトレードという制度の課題が指摘されました。

南アフリカ北ケープ州でルイボス茶を生産する協同組合のマネージャー(右端)とスタッフ
南アフリカ北ケープ州でルイボス茶を生産する協同組合のマネージャー(右端)とスタッフ

また、フェアトレードで実現する取引価格のなかに、支援側による公正さの具体的な解釈を分析する大野報告に対して、会場からは取引価格を協議する過程も公正さを考慮しており、それも評価されるべきだという意見が寄せられました。

協議過程の公正さとはすなわち相手を配慮するケアに他なりません。このようなケアの側面は、制度設計を評価するなかで捉えることは難しいように思われます。

正義の観点からフェアトレードの制度設計を評価すれば、改善すべき問題点は必ず出てくるでしょう。だが、支援される者、支援に関わる者、さらには支援の枠組みから外れる者からの事前、事後の声を聴く――ケアという別の視角によって、制度設計の分析では隠されてしまう新たな必要性、意義、効果が目の前に現れるのではないでしょうか。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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