先が見えない時代、シナリオ分析に光明あり【世界を変えるCSV戦略】

シナリオ分析は、「変化の激しい時代にあって、未来を確実に予測することは不可能であるとしつつも、起こりうる可能性のある複数の未来(シナリオ)を想定し、不確実性の高い環境の中で適切な意思決定を行うことを可能とする戦略手法」です。

このシナリオ分析で有名なのが、石油エネルギー企業のシェルです。シェルは、長期に亘りシナリオ分析を経営の根幹に据えています。1970 年代初頭には、長期の石油産業について洞察を加えるプロジェクトを実施。「石油価格は現状を維持する」「OPEC が主導して石油価格の高騰が起こる」という2 つのシナリオを導出し、準備を進めました。

1973 年に第4 次中東戦争が発生して石油危機が現実のものとなったとき、シェルはシナリオに基づき急激な環境変化に対応でき、7 メジャー最弱だったシェルは、戦争終結時には世界第2 位となりました。

1980 年代には、「ソ連は現状の体制を維持する」「ソ連は経済悪化からグリーン化(民主化)する」という2 つのシナリオを描画。ソ連でペレストロイカが始まったとき、シェルはいち早く動き、ソ連の天然ガスや油田の権益獲得で優位に交渉を進めることができました。シナリオ策定の基本的流れは、以下の通りです。

(1)社会の変化動向をとらえるための情報をPEST(ポリティクス、エコノミクス、ソサイエティ、テクノロジー)などのフレームに基づき収集し、その中から自社事業に影響を与える変化要因(ドライビングフォース)を抽出
(2)ドライビングフォースの中から、自社事業へのインパクトが特に大きく、不確実性の高いものをシナリオの骨格となるキードライビングフォースとして設定
(3)キードライビングフォースの変化の組合せにより複数のシナリオを策定
(4)現実がどのシナリオに近づいているかを理解するための先行指標を設定しつつ、各シナリオに対応した戦略を準備

シナリオ分析で複数の未来を想定し、如何なる未来が訪れようとも達成すべき「目指す姿」を描き、それぞれのシナリオが発生した場合の準備をしておき、どのシナリオに近づいているかを指標にもとづき判断し、柔軟に戦略を変更していくことが不確実性の高い事業環境下で、確実に成果を出していくためには必要となります。そして、今の時代、「目指す姿」には、CSV/シェアード・バリューの要素は不可欠でしょう。

【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/CSV のコンサルティングを主業務とする。ブログ「CSV/ シェアード・バリュー経営論」共著『CSV 経営』(NTT 出版)

(この記事は株式会社オルタナが2013年10月7日に発行した「CSRmonthly 第13号」から転載しました)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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