編集長インタビュー: 鎌仲ひとみ氏(映画「ミツバチの羽音と地球の回転」監督)

■二項対立を乗り越えるには

森: さっき原発のプロパガンダは3つあったと思うんですけど、それに加えて、どうも反原発と言ってる人は左翼であるとか、元ヒッピーであるとか得体が知れないっていうまた固定観念があるじゃないですか。

鎌仲: それはそっちも悪いのですよ。

森: そっちって誰ですか?

鎌仲: つまり反原発の人たちの、自分たちが客観的にどう見られているのかということの客観性が、ちょっと足りない。自分たちは良いことをやっているんだと。原発はアプリオリに前提として悪だと。というところから話を始めるから、そうではない情報を元々一回染み込ませてきた人たちにしてみると、この人何言ってるのかしらと。すでにスタートポイントから乖離というかギャップが生まれてしまう。例えば私の場合は、「六ヶ所村ラプソディ」を作って、650箇所上映して、いろんなところで上映しました。自治体の人も来たし、企業の人も来たし、普通のおばちゃんたちも来た。そこではやはり共通言語が必要でしょ?共通言語が双方両方にないという不毛な時代があったわけですよ。

森: そこに不幸があるんですね。

鎌仲: 六ヶ所村ラプソディの場合は、原子力産業の内実を内側からそのまま描くということをやった。今回は原発だけではなく、エネルギー全体を問いました。そうしたらいろんな人たちが入ってきて議論に参加できる。別に原発の話だけしてるわけじゃないですからね。持続可能な未来のエネルギーについて話したい。そういう場を作ったりとか、電力会社の人も来られるような、鎌仲はもう色がついてしまっているから、左翼とかなんとか、でもそういうものを私はいつもとっぱらってこういうポップな感じにしたりとか。

■右とか左は無意味だと思う

森: 鎌仲さんは右とか左とかあるんですか?

鎌仲: ありませんよ。そんなのは今、無意味じゃないですか。そういう古い世界の、もうすでに過ぎてしまった。資本主義というものが席巻してしまったこの時代は、グローバリゼーションの時代では右も左も関係なく、右でも反戦だったり、左でもテロと戦争した方がいいとか。私は元々イデオロギーには全然興味がない。

森: そうですか。僕も同じです。

鎌仲: 私なんてイデオロギーは全くないですよ。だから映画評論家はなかなか私の映画の批評が書けないんじゃないかと思う。

森: 割と左だと思われてません?

鎌仲: 左?

森: 鎌仲さんは。それは周りが悪いのかもしれないけど。

鎌仲: 左ねぇ。うーん。

森: だから反原発といった途端、左となっちゃうのが、それが問題なんですよ。おそらくはね。

鎌仲: 左も右も関係ないプレゼンゼンテーションを私はしてるはずなんですよ。

森: そうでしょ。それを左が言ってることだからと片付けたがる人たちがいて。

鎌仲: でも悲しいことに、右で反原発をやってる人がいないので。

森: いてもいいですよね。いないですか?

鎌仲: あんまりいないんですよ。実際アクションしてる人たちもそうなので。

森: 愛国っていうのは国を愛することだから、その国が放射能まみれになるより、ならない方がいいではないですか。

鎌仲: そこまで深く考えてる右の人はいないと思います。

森: そうですか。

鎌仲: 私は環境で斬ってるわけだから。

森: 環境愛国党とか作ったらいいのに。

鎌仲: 作ってくれたらいいよね。

鎌仲: 右とか左とか無意味なんですよ。敵も味方もない放射能汚染を描いて、原子力産業の中を描いて、今は新しいエネルギーを展望する映画を作って、この三本を観ると誰でも自分で選択できると思う。

森: 一つの国の人の意識を変えるのってこんなに大変な作業なのかと改めて思いますね。

■スウェーデンはどう変わったのか

鎌仲: でもスウェーデンでは10年で変わったからね。

森: スウェーデンはどうやって変わったのですか。

鎌仲: 最初に持続可能とは何か。1980年に原発に関して国民投票したのです。その前の1979年はそれを巡って国民的な議論をした。皆そこで現実的にならざるを得なかった。反対しようが、推進しようが、そこに12基ある。かつて12基あった。今10基だけど。12基の原発を抱えている自分たち、それに依存している自分たちということが現実にあるから、そこから話を始めるしかないわけです。じゃあそこから出てくる放射性廃棄物はどうなるのか、ということは絶対議論をしなければいけない。

森: まさに国民投票ということは、国民たちが自分のこととして議論をし合わないと結論が出ない。今日はたまたま原発とか環境の問題を話してますが、日本に欠けているのは実はそれだけじゃない。教育などたくさんの問題がある。。

鎌仲: デモクラシーなんですよ。

森: そうなんですよ。そもそも国民が自分で考えるというプロセスが今の日本からは遠すぎる。

鎌仲: 映画の中にも出てきたように、二項対立しかない未成熟な社会、原発反対と推進とだけを言い合っているだけの時は、二項対立だから平行状態を辿って、ギャップがあって、コミュニケーションもない。でも国民投票しようとした時に、情報が開かれて、放射性廃棄物がどれだけ溜まって、それはいったいどんなもので、っていうことが明らかになった時に、国民は否応なしに、ではそれに対してどうするか、皆が協力しないとこれは解決できない問題だと気がついて、それでお互いが協力し合う大人の社会になれた。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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