持続可能性と金融市場[齊藤 紀子]

金井司氏(三井住友信託銀行)は、日本の金融市場においてESG要素を考慮したお金の動きの胎動が見られること、企業は統合報告の対象となる6つの資本
(1)国内外の資金提供者から集める金融資本
(2)製品の生産やサービスの提供のために利用する製造資本
(3)経営・事業を担う人材である人的資本
(4)イノベーションを創出する能力の源泉となる知的資本
(5)サプライチェーンや社会規範などの社会・関係資本
(6)環境などの自然資本

これらの提供者に対してESGの観点からリスク要因を特定し情報開示していくことが必要であることを指摘しました。

2011年に採択された21世紀金融行動原則は、環境省による提言に端を発し、環境に加えて社会、ガバナンスをキーワードとして策定が進められました。前文には、21世紀型金融の形として「お金を流す機能(リスクを取っても持続可能な発展に資する金融)」と「お金を流さない機能(環境や社会に重大な影響を及ぼす可能性がある場合には慎重に臨む予防的アプローチ)」の2つの機能が謳われています。

金井氏は、人権や環境に悪影響を及ぼす恐れのある事業や業種にはお金は流さない、というように特に後者の機能が銀行にとって重要であることを指摘しました。

日本版スチュワードシップ・コードの原則3の指針の中には、投資家が把握すべき状況として「投資先企業のガバナンス」、「リスク(社会・環境問題に関連するリスクを含む)への対応」などの非財務事項が例示されています。企業にとってESGは、統合報告書が念頭に置く6つの資本の資本効率性の観点から捉えるべきリスク要因となります。

例えば、少子高齢化の進む日本では人的資本が減っていくことや、資源輸入国であり自然資本が少ないことなどのリスクを抱えています。この6つの資本の提供者、すなわちステイクホルダーを考慮して経営し、企業報告を行うことが企業に求められるのです。

横山正浩氏(大和証券グループ本社)は、過去約1世紀の間の市場経済システムの変化と企業に対する期待の変遷を慨観したのち、大和証券グルークにおけるCSR重要課題と具体的取り組みを紹介しました。

ステイクホルダーに十分な配慮をしない経営は、中長期的には企業を不安定にし、株主利益を損なうという考え方が影響力を増しつつあります。財務情報に加えてESG情報が重要な投資情報になっている今、大和証券グループでは「金融機能を活用して持続的な社会に貢献する」、「健全な金融・資本市場を発展させ次の世代につなげる」という2つのCSR重要課題を設定しています。

そして同社では2001年以来、エコファンドなどのSRI商品を開発・提供し、2008年からは社会的課題の解決に寄与することを目的とする投資「インパクト・インベストメント」として、開発途上国の子どもたちにワクチンを提供することを目的とするワクチン債などの商品を日本に導入してきました。個人向けインパクト・インベストメント債券の市場では59%のシェアを占めています。

横山氏からは、事業を通じて解決することができない社会的課題もあること、社外のステイクホルダーが企業に対してもつ期待は多様であり、企業がそれらに対応しようとするとき、全く相反する行動が求められるケースもあることが指摘されました。

黒崎美穂氏(ブルームバーグ)は、ブルームバーグ社の取り組みを紹介するとともに、投資家・企業双方のESG投資に対する関心が高まりつつあり、グローバルレベルではESG投資がメインストリーム化しつつあることを指摘しました。

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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