FIFA女子W杯をLGBTとCSRの視点から楽しむために[村木 真紀]

■カミングアウトするアスリート達
私たちはLGBTが生きやすい社会づくりに向けて活動しているNPOだが、社会の中でのLGBTの可視化を推進するために、著名人のカミングアウトが大きな役割を果たすことがある。ビジネス界では昨年のアップルCEO、ティム・クックのカミングアウトが大きなインパクトを与えた。スポーツ界でも、カミングアウトするアスリートは年々増えている。

歴史を紐解けば、1985年、女子テニス界のレジェンド、マルチナ・ナブラチロワ選手の著書でのカミングアウトが始まりだった。実は本人が公表する前に、メディアでゴシップとして暴露されているのだが、彼女はプロの選手であり、ファンやスポンサーのことを考えてなかなか公表出来なかったと語っている。カミングアウトによって、プレー環境にマイナスの影響が出ることを恐れたのだ。

そこから30年、状況は劇的に変わりつつある。アメリカのプロスポーツでも、バスケではジェイソン・コリンズ選手、アメフトではマイケル・サム選手がゲイであることを公表した。彼らのニュースは世界を駆け巡り、オバマ大統領はじめ、社会から勇気あるヒーローとして賞賛された。どのチームに所属するのかをめぐっては苦労もあったようだが、ゲイであることが醜聞として扱われ、ファンやスポンサーを失う心配をしなくてはいけない時代は脱しつつあるように思える。

ジェイソン・コリンズ選手は公表後初めての試合でこう語っている。「とにかく、自分らしくあるように。そして、自分らしくあることに対して、何の恐怖や恥じる気持ちを持つ必要はない」。
http://sportiva.shueisha.co.jp/clm/otherballgame/2014/02/27/post_259/index3.php

最近では、水泳の北島康介選手とメダルの数を争った、オーストラリアのイアン・ソープ選手のカミングアウトが記憶に新しい。彼の場合は、過去、ゲイであることを隠し続けたストレスで、メンタルヘルスを悪化させアルコール依存症になっていた、という告白だった。LGBTであることも含めて、自分らしくいられることは、選手としてのパフォーマンスにも大きな影響があるのではないかと思う。

■企業も無関心ではいられない
企業はカミングアウトするアスリートを支援する動きを見せている。実は、前述のマルチナ・ナブラチロワ選手を広告に起用し、大成功をおさめたのは日本の企業だ。自動車メーカーのスバルは2000年に彼女を起用したキャンペーンを行い、アメリカ市場での成功の足場を築いたと言われている。

アスリート個人ではなく、広くLGBT支援のキャンペーンを打つ企業もある。スポーツブランドのアディダスは、アーティストとのコラボ商品として、ブランドの看板である3本線を2本線(=)にして、LGBTの権利の平等を訴えた。ナイキもLGBT支援のシンボルである虹をあしらった商品群を「BE TRUE」コレクションとして発売している。同社は「(従業員として)LGBTが働きやすい企業」(HRC, Best Place To Work)として100点満点の評価も取得している。

今、FIFA(国際サッカー連盟)は、スタジアムでの差別と戦っている。「バナナ」事件や「横断幕」事件もあったが、実はLGBTに関する聞くに堪えないヤジも多い。FIFAは差別禁止規定を作成しているが、そこには「性的指向」による差別の禁止も文言として入っている。

IOC(国際オリンピック委員会)も、ソチ五輪を経て、開催都市での「性的指向」による差別の禁止を明文化した。当然、開催都市の行政やスポンサーなどのオリンピック関連企業も、それを無視できない。これから、大きなスポーツ関連ビジネスに関わる企業は、職場内や事業におけるLGBTへの差別禁止が「最低基準」になるだろう。

■スポーツで平等な社会をつくる

muraki

村木 真紀 (認定NPO法人虹色ダイバーシティ代表理事)

認定NPO法人虹色ダイバーシティ代表(理事長)。社会保険労務士。茨城県生まれ、京都大学総合人間学部卒業。日系メーカー、外資系コンサルティング会社等を経て現職。当事者としての実感とコンサルタントとしての経験を活かして、LGBTに関する調査研究や社会教育を行う。著書「虹色チェンジメーカー」(小学館新書)執筆記事一覧

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