シュロ、気がつけばそこかしこにーー私たちに身近な生物多様性(9)[坂本 優]

シュロが繁茂しているということは、枯死はもとより、発芽を妨げるような冷え込みもない冬が続いているのだろう。また、いったん、成長し始めると、いかにも園芸品種のような南国風の姿から、誰かがわざわざ植えたように誤解され、伐採を免れてきたのではないかとも言われる。最近はさすがに、そういった誤解はないだろうが。

明治神宮4月
明治神宮4月

野鳥観察を主な目的にして各地の林に入っていた頃は、もっぱら、樹を見上げたり、さえずりに耳を傾けたりしていた。足元の下生えに、いかにシュロが増えているか、ということは、間違いなく視界に入っているはずなのに、特に意識しておらず、気付かなかった。
逆に、自然観察会のテーマに、林の下生えのシュロを取り上げ、明治神宮の中を

「あそこにもシュロ、ここにもシュロ」と言いながら歩いていた初夏の一日、遠くから何の鳥か、よく響く野鳥の声がしていた。

ふと腰を下ろし、目を休めるように耳を澄ますと、それは間違えようもない外来の鳥、ガビチョウの大きな鳴き声だった。侵略的外来種であるガビチョウの声すら特に意識しなければ、普段の野鳥のさえずりのように聞き流している。

明治神宮8月
明治神宮8月

いや、わざわざガビチョウを例に挙げずとも、セイタカアワダチソウやセイヨウタンポポなど多くの生きものが日本の自然や景色のなかにそれが昔からの光景、風物であるかのように定着している。

注意して観察すれば、すぐわかりそうな変化でも、何気なく歩いていると、気付かないまま通り過ぎてしまう。あるいは慣らされてしまい、変化を変化と感じない。気付いたときには、目に入る自然だけでなく、耳に届く野生もいつの間にか主役が交代しつつある。

sakamoto_masaru

坂本 優(生きものコラムニスト/環境NGO代表)

1953年生。東京大学卒業後、味の素株式会社入社。法務・総務業務を中心に担当。カルピス株式会社(現アサヒ飲料株式会社)出向、転籍を経て、同社のアサヒグループ入り以降、同グループ各社で、法務・コンプライアンス業務等を担当。2018年12月65歳をもって退職。大学時代「動物の科学研究会」に参加。味の素在籍時、現「味の素バードサンクチュアリ」を開設する等、生きものを通した環境問題にも通じる。(2011年以降、バルディーズ研究会議長。趣味ラグビー シニアラグビーチーム「不惑倶楽部」の黄色パンツ (数え歳70代チーム)にて現役続行中)

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..