動物実験を経た化粧品の販売を禁じた欧州委員会の販売規制も背景にあるが、JAVAなどの20年以上にわたる企業へのアプローチが功を奏した格好だ。
花王は6月22日、3つの動物保護団体で構成する「美しさに犠牲はいらないキャンペーン(CFB)実行委員会」を社内に受け入れ、青木秀子・常務執行役員やカネボウ化粧品の執行役員ら5人と意見交換を行った。その席で、花王がCFB側に動物実験廃止の決定を伝えた。
JAVAの亀倉弘美理事は「この数年、日本の大手企業にも対話の機運が出てきた。資生堂はNPOや弁護士、研究者らを招いて6回も円卓会議を開き、話し合いをした。化粧品の動物実験の完全廃止まではまだ遠いが、消費者に向き合う消費財メーカーがきちんと声を傾けてくれたのは大きい」と話す。
もう一つ、企業とNPOの関係を巡って象徴的なことが起きた。いまテレビで盛んにCMを打っていることで知られるスポーツジムのRIZAP(ライザップ)に対して、兵庫県のNPO「ひょうご消費者ネット」が5月18日、次のように書面で申し入れた。
1)広告に「30日間全額返金保証」との記載があるが、クラブ会則によると「会社が承認した場合においては」とあり、恣意的な判断も考えられ、「返金保証」の文言とは矛盾する。
2)人事異動や病気その他会社の都合により、トレーナーの担当変更が生じた場合には返金の対象外とされており、全額の返金が保証されているとは言えない。
3)会則で「会社が販売する物品は返金の対象外とされており、全額の返金が補償されていない。
ところがライザップ社は回答期限の6月18日、「1)と2)については、ご指摘にかかる会則の条項を撤廃します」と回答し、すぐに実行に移した。
このような不当表示の疑いがある案件は、以前なら公正取引委員会が主管し、排除勧告や審決などの手続きが取られる。それには長ければ1-3年掛かることも珍しくなかった。それが今回、わずか1カ月で決着したのだ。
ライザップ社の親会社、健康コーポレーションの渡辺華子・広報担当は「弊社はかねてから、社会との対話を重視してきました。今回の会則変更もその一環です」と説明する。
その背景には「消費者団体訴訟制度」がある。契約トラブルなどにより、少額だが被害者が多数にのぼるサービスを提供している業者に対して、一定の要件を満たす消費者団体(適格消費者団体)が被害者に代わって訴訟を起こすことができる制度だ。2007年の改正消費者契約法改正によってスタートした。
現在、全国に12団体ある「適格消費者団体」は内閣総理大臣の認定を受け、消費者全体の利益擁護のために差止請求権を行使できる。その多くが「ひょうご消費者ネット」などのNPOだ。今回の申し入れ書は訴訟の前段階。申し入れにもかかわらず適切な対応を取らない企業や団体に対しては提訴する。
ひょうご消費者ネットのスタッフの一人、井上伸・弁護士は、電話取材で「当ネットの申し入れを踏まえた改訂が自主的になされたことは基本的には評価できる」 と話した。
「内容については今後精査し、今後の対応を検討する。まだ修正したい点があれば再度申し入れる可能性もある。商品購入部分が返金保証の対象外であるとの会則は維持されている点については今後、広告において打ち消し表示が明確になされるか、また、契約時にも明確な説明がなされるかについて引き続き注視をしたい」との見解を明らかにした。
同NPOの理事やスタッフの多くは弁護士だが、全員が無給。このような請求が通っても、一銭も入ってこない。それでも消費者の不利益を救いたいと続ける彼/彼女らの活動を見るにつけ、本当に頭が下がる思いだ。