これからの企業とNGOのパートナーシップ――ビジネスと子どもの人権(5)[金谷 直子]

■行動規範はリスク削減への第一歩
一方でこれは、子どもを対象とした活動だけに課せられる責任ではない。ビジネスの拡大や企業の成功が子どもの搾取の上にあるとしたら、どうだろうか。
 

企業施設の一角や、インターネットを介した匿名性の高い環境で、子どもが犯罪に巻き込まれたり、被害に遭ったりしている。これを防ぐことは喫緊の課題である。
企業施設の一角や、インターネットを介した匿名性の高い環境で、子どもが犯罪に巻き込まれたり、被害に遭ったりしている。これを防ぐことは喫緊の課題である。

これについては、旅行業界の取り組み事例をご紹介しながら考えてみよう。ひところ、世界各地の観光ツーリズムにおいて長年放置されてきた子どもの買春ツアーに対する抗議の声が強まり、子どもの商業的性的搾取に反対する世界的な機運が高まった。

これを受けて国内外の旅行業界では、ユニセフやNGOとともに観光産業がもたらしかねない人身売買の撲滅に向けた取り組みをはじめたのだ。従業員の意識向上に向けた倫理規定をつくって研修を行い、旅行客に特別な注意書きや懸念事例を報告するホットラインの電話番号を知らせるなど、旅行業界全体で取り組みを導入し大きな広がりをみた。

この例にあるように、子どもの保護に関する「行動規範」を作り、従業員を教育する手法は「子どもの権利とビジネス原則」でも強く推奨されている。行動規範により、どんな行為が禁じられて、一人ひとりがどのような目配りをして業務にあたるべきかを周知し意識化することができる。

あわせて、企業の施設や活動の中でリスクの高まる状況を分析し、逸脱行為や誤解を招くような状況を制限し管理することが重要である。プライベートで特定の子どもと連絡を取り合うことや、ソーシャルネットワークでの子どもとの関係にも警笛を鳴らしたい。

さらに暴力や搾取が疑われる際の報告相談窓口を作り、問題の兆しを素早く見つけ予防対策に結び付けることにも注力する。

私たちが「安全」を口にするとき、注意すべきは事故や人為ミスだけでない。子どもへの暴力や性的いやがらせなど、従業員や顧客までもが起こしかねない子どもの権利侵害に対しても十分な対策を打つこと必要だ。

これは企業や組織としての責任であり、産業の成長のための糧となるはずである。先にあげた旅行業界のように、子どもの権利に基づく事業展開のノウハウを蓄積してきたNGOとの取り組みを模索することも、一つの選択肢ではないだろうか。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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