編集長コラム)トヨタ自動車の「バックキャスティング」を考える

日本でバックキャスティングが広がらない理由は、良い悪いは別として、日本人は「不言実行」を旨としているからだ。「できもしないことをぶち上げ、実現できなかったら逆に信頼を失ってしまう」と考える人が多い。バックキャスティングは有言実行型であり、日本では高い目標を掲げるだけで「ホラ吹き」と呼ばれてしまう。

トヨタのある管理職によると、今回の「トヨタ環境チャレンジ2050」を策定するにあたっては、社内幹部の間で、「これまでのように不言実行型で良いのか。トヨタとしてあるべき姿を社会に掲示する必要があるのではないか」という議論があったという。

その意味で、世界最大級の自動車メーカーが、このような意欲的な環境目標を打ち出したことはインパクトが非常に大きい。同業他社の幹部も大きな衝撃を受けたことだろう。

今回の「トヨタ環境チャレンジ2050」は、「新車CO2ゼロチャレンジ」「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」「工場CO2ゼロチャレンジ」など6つのチャレンジがあり、いずれも明確な将来目標を掲げた。これらのチャレンジは、同日都内で開催した「トヨタ環境フォーラム2015」に参加したWWFや、国際連合環境計画 (UNEP)などNGO/NPOの意見も反映されたという。

世界に目を転じると、特に環境やサステナビリティにかかわる分野において、さまざまな企業や組織や自治体がバックキャスティング的な目標を掲げ始めた。

例えば「レゴブロック」で知られるレゴ社は、2030年までにプラスチックの使用をやめる。同社は2030年までにレゴブロックの素材にABS樹脂を使うのをやめて「持続可能な新素材」に変えると今年6月に発表した。そのために今後15年間で約186億円を新素材を開発するためのプログラムに投資するという。

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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