これからの企業とNGOのパートナーシップ――ビジネスと子どもの人権(6)[森本 美紀]

■事故事例が法規制や規格を動かす
森本: 製品による子どもの事故のニュースを目にすることが以前よりも増えているように感じるのですが、製品やサービスの安全性に対する意識が、より一層高まっているということでしょうか?

: 消費者庁が発足して早々に『子どもを事故から守る!プロジェクト』が立ち上がりました。それが一つの契機となり、製品による子どもの事故のニュースリリースが増え、また消費者安全法に基づく事故情報の収集にも力が入れられるようになったという背景があります。日本小児科学会では、会員から症例を集め、『Injury Alert(傷害速報)』(https://www.jpeds.or.jp/modules/injuryalert/)として一般にも公開しています。製品による事故の情報は必ずしも企業に第一報が入るわけでなく、企業が実態を知らないまま事故が多発している状況も発生しています。

森本: そうすると、消費者庁や日本小児科学会が集めているような事故の実態を企業に知らしめる情報のパイプラインが必要で、再発防止に向けて対応することが子どもたちの安全を守り、尚且つ製品や企業の社会的な信頼につながるということですね。

■製品安全における子どもの指針:ISO/IECガイド50
森本: 製品やサービスと子どもの安全という点で、企業が特に気をつけるべきことは何でしょうか?

: 事故の分析をする際に見落としがちなのが『子ども』の視点です。子どもは単に『大人を小さくしたヒト』かというと、答えはNOです。大人と子どもの決定的な違いは、子どもは発育発達する点です。ISO/IEC Guide50:2014“ Safety aspects –Guidelines for child safety in standards and other specifications”(安全側面―規格及びその他の仕様書における子どもの安全指針)という子どもの安全を守るための国際的な指針があります。

2016年度にJIS(日本工業規格)化されることとなりましたが、このガイドには子どもは身体機能も認知機能も大人とは違うことについても記されています。

森本: ISOガイド50、初めて聞きました。どのようなものなのでしょうか?

: 子どもが使用あるいは消費する製品やサービスの安全性を確保するための研究、製品開発、流通、販売等に取り組むことが、子どもの権利を守り、推進するための企業の責任と貢献ですが、このガイド50の内容はその手がかりとなる情報が含まれています。

例えば、子どもは身体が小さかったり予期せぬ行動をとるなど大人にとっては「見えにくい」存在であることを指摘し、それによって生じるリスクを予防したり軽減したりする戦略が必要です。車両近くにいる子どもは運転者の盲点に入りやすく見えにくいため、鏡や認証システムを取り付ける等の対策が挙げられています。

また、子どもの探究心からくる探索行動についても、より具体的に記されています。ここでいう探索行動とは、口に含む、体を物の中、あるいは物を体の中に挿入する、落とす、投げる、限界を試す等を意味し、探索行動による使用は子どもにとっては誤使用とは言い切れないとしています。

子どもの安全は社会全体で重視すべき問題です。なぜならば、子どもは大人を基準につくられた環境のなかで育たざるをえず、子どもへの配慮が安全を考えるうえでは必要なのです。子どもへの配慮が必要なことを社会が理解することが、子どもの人権保障への第一歩であり、それが実現されれば、子どもの事故発生は抑制されるはずだと考えています。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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