米で「第4セクター」に注目~営利と非営利の垣根越える BALLE(ローカルビジネスネットワーク)2007年次総会報告

5年間で全米52都市、15,000社に拡大

5月31日から6月2日までの3日間、カリフォルニア大学バークレー校を舞台に、BALLEの年次カンファレンスが開催 された。BALLEとは、Business Alliance of Local Living Economiesのことで、一言でいえば、米国の各地で、地域経済との共生や環境への配 慮などに取り組む企業やNPO、個人事業者、メディアなどが集まるネットワーク組織である。BALLEが創設されたのは2001年冬のこと。以来、ボスト ンやワシントンなどの東部、サンフランシスコやシアトルなどの西部をはじめとする全米各地に広がり、現在では52の支部、15,000の企業が参加する ネットワークへと急成長している。

実は、私は、このBALLEのカンファレンスの本編に先立って開かれた”Money for Local Living Economies”という、地域通貨をテーマとしたセミナーに出席し「アースデイマネー」の取り組みに ついてプレゼンすることが、今回の訪問の主目的だった。だが、BALLEのプログラムの中には「地産地消」「再生可能エネルギー」「サステイナブルな都市 づくり」など、興味深いキーワードの数々が並んでおり、これは楽しみなカンファレンスになるに違いない、という期待を持って臨んだ。

カンファレンスの初日となる5月31日の午後5時ごろ。UCバークレーの構内にあるマーティンルーサー キング学生会館のロビーは、BALLEの参加者の熱気であふれかえっていた。受付を済ませた人たちが、会場で供されるカリフォルニアワインを片手に、お互 いに次々と新しい人に声をかけ、握手を求め、自己紹介をし、盛んに議論をしたりしている。
あとで参加者の一人に聞いて分かったことだが、他のカンファレンスと比べても、ここまで参加者がみなフレンドリーで、すぐに挨拶をしてきて自己紹介を始め るような場は珍しいそうだ。それぐらい、BALLEに集まる参加者たちは、互いにつながろうとする意識が強いということだろう。

さて、カンファレンスは、この31日の夕方から2日の夜まで、朝8時から晩の10時ごろまでみっちりスケジュールが組まれていた。その中に、大ホー ルでの基調講演やパネルディスカッションと、小規模の会場に分かれての分科会とが交互に予定されている。一日三食すべての食事が用意されており(もちろ ん、オーガニックのメニューだ)、さらに懇親会やパーティーなどもすべて含まれているという充実ぶりだった。

新しい「メインストリーム」がここにある

カンファレンスには、一貫した明快なメッセージがあった。
それは、これまでの米国を支えてきたシステムの限界がいまや明白になり、企業にとって、社会的公益性、倫理観、環境配慮などが待ったなしの命題となってい る、ということである 。
カンファレンスの幕開けとなる、初日の夜の基調講演は、オークランドを拠点に貧困問題や人権保護に取り組むElla Baker Center for Human Rightsの代表であるバン・ジョーンズ(Van Jones)による迫力満点のスピーチだった。ジョーンズは、今年2007年こそが歴史的なターニングポイントであることを指摘。そして、この場に集まる 人たちこそが今後の「主流」であると述べ、会場からの拍手喝采を呼んだ。

翌朝に続いた”The Great Turning”などの著者、デヴィッド・コーテン(David Korten)による講演もまた、ローカルビジネスこそが新しい社会のメインストリームとなることを宣言。戦争や貧困、環境問題など、世界経済の「破綻 (Unraveling)」からの方向転換をするときが来たと述べた。
コーテンはまた、企業の社会的責任の根幹として、そもそも企業の法人格は、公共の目的に資するために与えられた特権であると述べたうえで、「すでに十分裕 福な人の豊かさを増大させること」は公共の目的とは違うと指摘。いまや、1%のトップリッチが世界の富の40%を握り、次の1%が11%を握っている。反 対に、貧困な50%の人を合計しても世界の富の1%にしか満たないという現状に触れながら、戦争から環境へ、自動車から公共交通へ、広告宣伝から教育へ、 郊外からコンパクトなコミュニティへと、社会システムの「再配置」(Reallocation)こそが求められていると主張した。

こうした全体論を、具体的な戦略レベルの議論によって深めたのが、”Small-Mart Revolution”等の著者であり、また、独特のユーモアのセンスでみんなに愛されているといったキャラクターのマイケル・シューマン (Michael Shuman)だ。
シューマンは、中小企業こそが雇用の拡大や研究投資などを牽引しており、大企業はむしろ雇用を削減する傾向にあることなどに触れ、米国の経済における中小 企業の貢献の大きさを指摘。また、農業に投資する資金の8割以上が投資ファンドによるものであり、ローカルな性質のまったくないお金であることが農業のあ り方をゆがめていると指摘した。また、全米で売られる生鮮食料品の売上の49%は、5つのスーパーマーケットのチェーン店で占められていることなどにも触 れ、流通のしくみを変えることの必要性も訴えた。
こうした状況の中で、シューマンは、地域の中で経済循環を促す仕組みとして、地域の中小企業が株式を公開し、株式を売買できるような、ローカルな証券取引 市場の創設を提案した。消費者(Consumer)から共同出資者(Co-Investor)への転換。ちなみに、彼自身、2004年に養鶏場”Bay Friendly Chicken”に出資して、健康で安全な鶏の生産にもコミットするなど、口で言ったことを地で行っている人物だ。

もはや「営利か非営利か?」ではない

カンファレンスでは、これからの企業のあり方をめぐる新しい概念を見聞きすることができた。

その一つが「B コーポレーション」 という新概念。
BとはBenefitやBeautifulを意味しており、株主の利益だけでなく、多様なステークホルダーの利益を実現する企業のあり方をさしている。企 業の社会的責任がISO基準として策定される方向性が検討されているが、ISO化にはまだ時間を要しそうだ。そんな中、Bコーポレーションが、ISOに先 駆けて企業のCSRの認証として立ち上がるかどうか。今後の動向を見守るのがよさそうだ。

もう一つは、「第四のセクター」というキーワード。
政府でも企業でもNPOでもない、これまでの一般的な分類が通じないような組織が活躍する場面が増えてきた。NPOが企業を経営するような場合や、ワー カーズコレクティブのような組織など、営利か非営利か?という問いがあまり意味を持たないケースがしばしばある。こうした従来の枠組みを超えた組織のあり 方や組織デザインを考えようという動きが第四のセクター(Fourth Sector)である。

ここでも、どうやらキーワードはBenefitらしい。つまり、For-Profitではなく、For-Benefitということだ。私的営利を追 求するのがFor-Profitなら、公共的な効用を生み出すのがFor-Benefitということになるだろう。Benefitを「効用」と訳すのか 「共益」と訳すのか、はたまた別の言葉が適切なのか。日本でも、こうした概念について議論すべきことは有益ではないだろうか。いずれにせよ、そこには新し い社会を構成する事業体のヒントが、見え隠れしているように思われた。

着実に変化するアメリカ

ファーマーズマーケットカンファレンスの舞台となったバークレーは、まるでBALLEの目指す方向性を体現したような街だ。

植物性ディーゼル燃料(BDF)を販売するバイオフュエル・オアシス(BioFuel Oasis) は、資本金2万ドルのガレージカンパニーとして立ち上がったが、この秋には一回り大きな本格的なガソリンスタンドへと発展する。バークレーに拠点を置く NPOのエコロジーセン ター(Ecology Center) が主催するファーマーズマーケットは今年で20周年。市役所の隣の通りで開かれるマーケットには60軒ほどの出店者が並び、その隣では20周年記念のフェ スティバルが開かれ、多くの人でにぎわっていた。

今回カンファレンスに参加して、興味深かったのは、あるセッションで同じテーブルに座った夫婦たちだ。
彼らは地元バークレーでレストランを営んでいるというが、いわゆるニューヨークスタイルの、つまり、牛肉のステーキなどを中心とした(ある意味アメリカら しい?)食事を提供しているのだそうだ。そんな彼らがこのカンファレンスに出席した動機は、彼らもレストランのメニューを変更すべきかどうか迷っていたか らだった。もちろん、もっと健康的で野菜をつかった料理に…。
「このカンファレンスを見て決めようと思ってね」ということだが、きっとこの場は、彼らの背中を押すのに十分だったに違いない。
こうして、一人ひとりが、少しずつ方向転換をして、それが大きなうねりになっていく。新しいメインストリームというものは、こうして生まれていくというこ とだろうか。

私的利益ではなくBenefitの拡大を目指す。BALLEという運動体からは、事業活動を通じて新しい社会を構築する勢いが感じられた。そして、 私が日本に帰国したその日、夕刊の記事にはウォルマートが出店数の目標を3割減らし、ホームデポも収益目標を引き下げたという記事が大きく載っていた。世 界の足音をリアルに感じるカンファレンスだった。

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