研修では、森林組合や県の職員など約30人が参加。シュトリッカー氏は、先に高品質の大径木に育てる若木を選ぶ育成木施業のほか、低コストで環境に配慮する理念や技術など、森林との向き合い方をきめ細かく指導した。
「森に入ると、まず過去をチェックする。いつ、どんな木を植えて、これまでどんな育林をしてきたか。次に現在の状況を確認する。最後に、このままでは将来どんな森になるかを想像する。そして自分の望む森にするためには、今からどんな手を打つべきかを考える」
そして多様な樹種や樹齢の森をつくることがリスクマネージメントになることを強調した。気候や経済の変動に強いからだ。そのために観察と分析、想像力を駆使した森づくりが必要という。
日本でもかつてはそんな智恵があったはずだ。しかし忘れてしまっている。なぜなら、国や自治体が補助金を出す条件として作業内容を画一的に決めてきたからだ。間伐率や作業法などを厳密に指定して、さらに検査して条件どおりしたか確認する。そのため現場では、森のためにならず無駄な作業でも補助金ほしさに実施している。
林業に限らないが、そろそろ全国一律の政策を見直すべきではないか。各地の事情を汲み取った多様な施策を取ることが大切だ。最終目標(健全な森を作る、高品質材を生産するなど)に向けて現場が臨機応変に対応できる態勢を作らないと、いくら補助金を注ぎ込んでも林業はよくならない。
すでに奈良県は、林業を担当する林業振興課とは別に「奈良の木ブランド課」を新設し、木材の付加価値を高めて販売する道筋を模索し始めた。また人材育成のために、スイスのフォレスター学校の校長を招く予定もある。木材生産量と消費量を増やすことばかりにこだわる国の林業政策とは違う道だ。
奈良県の方針が、今後どのように進むか注視したい。同時に画一的施策から脱却し、全国で多様な林業が進むことを期待する。
※この記事は、オルタナ42号(2015年9月30日発売)のsocial business around the worldで連載したものを転載しました。オルタナ42号の詳細は⇒ http://www.alterna.co.jp/16271