その結果、マダガスカル、ガボン、コンゴなど多くの自生地域で、黒檀の森はほぼ消滅。そういった地域では種を守るため、今では伐採そのものが禁止されており、違法伐採とのいたちごっこを繰り広げる事態に陥っています。カメルーンは地球上に唯一残された、合法的に黒檀の商業伐採ができる国なのです。
■「B級」資材をA級価格で買い取り
そういった状況の中でテイラー・ギターが選択したのは、カメルーンを第二のマダガスカルにしないため、自腹を切って黒檀取引の改善に乗り出すことでした。そして会社の規模に見合わぬ大きな投資をして、彼らに黒檀を卸していたスペインの企業との合弁で、カメルーンの木材加工工場を買収したのです。
最初は「事業」としての側面が強かったこの買収ですが、自らカメルーンに赴き現状を知ったテイラー氏は、この事業の持つ社会的側面の広がりに圧倒され、「他の誰でもない、自分たちが黒檀の森を守らなければ」と決意を新たにします。そして、伐採の認可システムを強化して、違法伐採を排除し、合法に認可を得て切った木材だけを受け入れる体制を整えていきました。
そんな中テイラー氏は、人生を変える出来事に出会います。2011年のとある日、彼は、買収した加工工場に黒檀を納入している伐採業者と話をしていました。商売はどうかとたずねると、あまりよくない、という答えが返ってくる。
わけを聞いたところ、コストを考えるとカツカツだ、と。道路沿いにあった運搬しやすい木はもう全部切ってしまったから、今では5キロ8キロと山の中に入っていかなければならず、そこで切った木を木材にして道路まで運び出し、工場まで運ぶのにたいへんな労力がかかる、と。そしてこう付け加えたそうです。「おまけに、B級の木は使えないし」。
ギターメーカーのトップであるテイラー氏が、「B級の黒檀」なるものの存在を、初めて知った瞬間でした。よくよく聞いてみると、B級の木はA級の5分の1の値段にしかならないため、工場まで運搬するコストが出せない。そのため伐採業者は、切り倒してB級だとわかったら、そのまま放置するのです。そして、A級の木はほぼ10本に1本しかない。つまり、危機に瀕しているはずの黒檀の、実に10本に9本が無駄に切り倒されていた、という事実。
それでは、A級とB級の違いは何なのか。それは、「色」でした。
A級として売れる黒檀は、均等に真っ黒でなければならない。少しでも灰色の部分があったり、まだらが入っていたりすると、B級とみなされて、商品価値を剥奪されてしまう。材木としてのクオリティに違いはない。ただ真っ黒かそうではないか、それだけ。
テイラー氏は伐採業者に言います。「じゃあ、B級の木にもA級と同じ値段をつけて買い取ってやる、といったら?」。すると業者は、「それはすごくありがたい。切る木も少なくてすむし、今より収入も増える。だけど、B級は使えないのでしょう?使えないって聞いていたから」。
テイラー氏は、業者に言います。
「今日、たった今から、まだらの黒檀は、使える」
「え?誰が使えるって決めたんですか?」
「私が決めたんだ」
そうして、黒檀供給側から見れば「顧客」であったはずのギターメーカーから、音楽産業を変える決断が生まれました。カメルーンで生産される黒檀の75%を扱い、世界中の楽器メーカーに黒檀を卸すテイラー・ギターズ所有の加工工場では、そのときからまだらのB級黒檀が使われるようになったのです。
■工場の労働環境も改善