企業の人権に関する法制化のゆくえ――下田屋毅の欧州CSR最前線(49)

現時点での世界でのビジネスと人権に関する法制化に関連する共通認識は次のようになっている。

・条約による法制化は、制定に時間がかかる。
・条約締結のプロセスと指導原則の推進は、お互いに補完性があるとされ、2つの方法を繋ぎ合わせて実施していく方向での議論がなされるようになっている。
・条約は、多国籍企業を対象とするだけでなく、全ての企業を対象とするべきだ。
・条約による法制化を審議している間は、各国では「ビジネスと人権に関連する指導原則」に則った「国別行動計画」を所持し機能させる。
・国別に、個別の人権課題(現代の奴隷制や紛争鉱物等)についての法規制をすることによって、企業に人権課題へ取り組みを行わせる仕組みを作る。
・「ビジネスと人権に関する指導原則」を導入していない企業は取り組みを進め、導入している企業は、その仕組みがうまく機能するように継続して取り組みを行っていく。

このように企業は、企業に関わる人権への対応を進めていく世界での流れがあり、ビジネスと人権に関する指導原則に則って進めていくことが不可欠な状態となっているのである。

■日本も事実上の宣言
日本にはいまだ国別行動計画がなく、法律制定による企業に関する人権の取り組みを進めさせる動きもないようだ。しかし2015年のG7エルマウサミットの首脳宣言の「責任あるサプライチェーン」の項目の中では、「国連ビジネスと人権に関する指導原則を強く支持し、実質的な国別行動計画を策定する努力を歓迎する」とあり、日本も宣言をしたことになる。

今年はG7のサミットが伊勢志摩で行われるが、日本がホスト国として、事前に国別行動計画の所持へ向けたステップを見せること、また日本の企業もこの機会を活用し、自社そしてサプライチェーン上での人権の取り組みをしていることを世界へ向けて発信するための準備を進めてほしい。

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下田屋 毅(CSRコンサルタント)

欧州と日本のCSR/サステナビリティの架け橋となるべく活動を行っている。サステイナビジョン代表取締役。一般社団法人ASSC(アスク)代表理事。一般社団法人日本サステイナブル・レストラン協会代表理事。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。執筆記事一覧

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