フェアトレードを調達戦略に組み込むグローバル企業

【フェアトレードシフト 1】

フェアトレードというと、日本のビジネス界にはいまだ多くの「誤解」があるようだ。「品質が悪い」「十分な供給量がない」「一部の物好きがやるもの」「ビジネスとして成り立たない」などが、代表的な誤解といえるだろう。

しかし、そのような認識は、もはや世界でも日本でも通用しない。世界では、ネスレやスターバックス、マースやモンデリーズといったグローバル企業が本格的にフェアトレードを自社のグローバル調達戦略に組み入れている。

特に欧州では、国や地方自治体の公共調達基準にフェアトレードが含まれており、国際会議で提供されるコーヒーや紅茶だけでなく、職員や学校の制服素材に使われるコットンも対象だ。

オランダ銀行製造の紙幣限定だが、ユーロ紙幣の原料にまでフェアトレード認証コットンが使われている。フェアトレードは、持続可能な地球社会を実現する有効な手段として認識され、取り入れられている。

日本でも、小中高の学校教育において、社会科、英語、家庭科など、教科横断的にフェアトレードが教えられている状況だ。そのような教育を受けて育ってきた最初の世代は、いまや企業の中で中堅社員として活躍し、フェアトレード推進に奮闘している人たちも多い。

2016年1月、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会から「東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した調達コード 基本原則」が発表された。

①どのように供給されているのかを重視する 、
②どこから採り、何を使って作られているのかを重視する、
③サプライチェーンへの働きかけを重視する、
④資源の有効活用を重視する─
という4つの原則を掲げる。特に①は、人権の尊重、適正な労働環境、強制労働・児童労働の排除、公正な取引、環境保全など、まさに「フェアトレード」の概念そのものである。

今後、4つの原則に基づき、具体的な調達基準とそれら基準の遵守状況の確認方法のルールが定められる予定である。

2020年東京大会から8年も遡る2012年のロンドン大会では、すでに調達基準にフェアトレードが盛り込まれ、選手村の食堂や競技場の売店で提供されたコーヒー(1400万杯)、紅茶(750万杯)、バナナ(1千万本)はすべてフェアトレード認証製品であった(数値は英国フェアトレード財団による推定)。

フェアトレードを含め、持続可能性を保証する各種国際的な認証が必ずしも日本では十分に普及していない中、基準遵守の実証方法を、各サプライヤーによる単なる自己申告で良しとするといった、日本独自の緩やかなルールにだけはならないようウォッチしていきたい。そして、ぜひとも国際的に通用する基準となるよう強く要請していきたい。

サプライチェーンにおける貧困や人権の課題をどのようにビジネスで解決していくか。

これからの時代、労働者に最低賃金(ミニマム・ウェイジ)を保証するといった「最低限の法令順守」というレベルから、人間らしく生活していくのに必要な賃金(リビング・ウェイジ)をいかに保証するかという、よりサステナブルな世界を目指す積極的な姿勢へのシフトが求められる。
(雑誌「オルタナ」45号 フェアトレードシフトから転載)

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