ビジネスのヒントは「自然」にあり――環境の先駆者たち1万人の巨大イベント「Bioneers」2007報告

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鈴木菜央(greenz.jp 編集長)

Bioneers とは、 Bio-logical (生態学的に合理的であること)と Pioneer (先駆者)を組み合わせた造語である。日本ではまだ馴染みがないかもしれないが、 18 年前から毎年開催されているビッグイベントだ。今年も米カリフォルニア州で 10 月に開かれ、循環型の事業に取り組むビジネスパーソン、第一次産業の従事者、学者ら1万人もの参加者が集まった。「ビジネスの答えは『自然』の中にすでに ある」「本質的なビジネスは美しい」などの声が飛び交った、会場の熱気をそのままお伝えする。

1万人が参加、北米大陸18か所に衛星中継

今年で 18 年目を迎える Bioneers は毎年、 10 月の第 3 週に 3 日間(金・土・日)に行われる。今回もサンフランシスコ市内から車で 30 分ほどのサン・ラファエル市のマリン・シビック・センターで行われた。丘に囲まれた湖のほとりに位置するこの会場は日本の帝国ホテルや落水荘の美しいデザ インでもよく知られる、世界的建築家フランク・ロイド・ライトのデザインである。会期中、午前中はすべて全体セッションで、 2000 人収容のメインホールにてスピーチ( 3 日間で合計 15 人)が行われる。その様子は数台のテレビカメラで撮影され、アメリカ、カナダの 18 か所のサテライト会場へと衛星中継される。午後は分科会形式で合計約 60 のセッション(セミナー、ワークショップなど)などが会場のあちこちで同時に行われる。参加者は 3 日間で合計約 1 万人である。

あらゆる分野から、Bioneerたちが集合

ところでこのイベント名「 Bioneers 」という言葉には、もう一つ意味がある。いわば、「生態学的先駆者」という意味だ。「 Bio – logical (生態学的に合理的であること)」と「 Pioneer (先駆者)」を組み合わせた造語なのだ。この造語の生みの親であり、イベントの主催者でもあるケニー・オースベルはそれを「生命の本質は共生であり、多様 な生命の相互援助によって持続していくという Holism (全体論)の認識を核の価値観として持ち、多様な原理に基づいた革新的かつ創造的な方法で環境、社会文化問題を解決しようとする個人またはグループ」であ ると定義している。また、「恐ろしく複雑な環境問題をエレガントで単純な方法で解決する革新者」とも。本稿では、イベント全体を Bioneers 、先駆者たちを「バイオニア」と表記した。

バイオニアたちは主にアメリカ、カナダで活躍する生態学者、環境経済学者、建築家から、新しい循環型社会のビジネスにとりくむソーシャル アントレプレナー、庭師、漁師、林業家など、循環型の農林漁業に従事する人々、太古からの智慧を今に伝える先住民族、あらゆる社会問題に取り組む社会問題 の解決に力をそそぐ NPO/NGO のリーダーや創設者、社会問題に積極的に取り組む編集者、ジャーナリストやメディア関係者、社会問題に取り組むアーティスト、映画監督、ダンサーなどのク リエイター、宗教者、教育関係者など、きわめて多岐にわたる。

緑があふれる会場のようす。会場内には給水ポイントが多数あり、みな水筒を持ち歩いていた。

メイン会場となったホールにはテレビカメラも入り、アメリカ、カナダ各国のサテライト会場に配信された。

そんなバイオニアたちが自分を突き動かす思い、実際に世界を変えている活動、自身の経験から学んだこと、そして未来のビジョンとプランを語ることを 通して、知恵と創造性をすべての参加者と共有し、たくさんの人とつながり、「人々と地球のための実践的な解決策と社会変革の種をまく」イベント、それが Bioneers なのである。

さっそく、私たちが特に心を動かされたバイオニアたちを紹介しよう。

地産地消カフェのお手本

ホ ワイトドッグ・カフェ(White Dog Café)

まず圧倒されたのは、24 年前にペンシルバニア州で「ホワイトドッグ・カフェ」を開業し、地元に根ざした持続可能なビジネスを展開するジュディ・ウィック。「未来を変える 80 人(日経 BP 社 シルヴァン・ダルニル、マチュー・ルルー著)」にも登場し、世界的に知られた人物でもある彼女は朝起きると、壁に貼ってある「 Welcome to my Beautiful Business (私の美しいビジネスへようこそ)」と書かれた紙を読むそうだ。「そう、本質的なビジネスは、美しいんです」。

バイオミミクリに基づいた省エネ製品を開発

パックス・サイエンティフィック社(PAX Scientific)

バイオミミクリ研究からデザインした画期的なプロダクトを開発する企業であるパックス・サイエンティフィック社の社長ジェイ・ハーマンは、消費電力量も騒 音も従来の常識では考えられないくらい大幅に削減するファンやスクリュー、業務用攪拌機などをプレゼンテーションした。「答えは自然の中に、すでにあるの です」と語った。

環境問題と貧困の同時解決を目指すNPO

エラ・ベイカー・センター・フォー・ヒューマンライツ(Ella Baker Center For Human Rights)

エラ・ベイカー・センター・フォー・ヒューマンライツを設立し、人種的マイノリティーに対する社会的不公平の改善と環境 問題の解決に取り組むヴァン・ジョーンズは、(日本では別の問題と捉えられがちな)環境問題と貧困、格差問題をつなげて、両方同時に解決する「グリーンカ ラージョブ」プロジェクトを推進している。日本でも今後格差がますます拡大していく中で、このような考え方とアプローチが必要になるのでは、と思わせる講 演だった。

先住民の知恵に学ぶ

ネイティブ・ムーブメント(Native Movement)

また、北アラスカでネイティブ・ムーブメントの代表として先住民のアイデンティティを継承する活動を展開するイヴォン・ピーターは先住民の視点から、人類 がこれからの数百年を生き延びるために、先住民の智慧に何を学べるか、ということについて語った。

多国籍企業による乱開発を告発

アース・ライツ・イ ンターナショナル(Earth Rights International)

そして、今年の Bioneers のハイライトと言えば、アース・ライツ・インターナショナル代表として、「開発」の名の下に行う人権侵害と環境破壊についての多国籍企業の責任を問う活動 を行っている人権活動家カ・サウ・ワとケイティ・レッドフォードの2人。

かつて法律学を学ぶ学生インターンとしてタイとミャンマーの国境を訪れたケイティが、カ・サウ・ワと出会い、ミャンマーでアメリカの石油大手が軍事 政権を使い、非人道的な”開発”を行っている現実を知る。「どうしたらこれを止められるか」と聞かれ、「訴えればいいじゃない」と思ったという。しかし、 実際にはアメリカには企業の国外での行動を制限する法律もなければ、そのような判例すら無かった。訴訟を検討していると公表すると、誰もが絶対に不可能だ と言い、さまざまな妨害もあったという。ミャンマー国内での情報や証拠収集も困難を極めた。アメリカとミャンマー両国で、まさに命がけの活動だったのだ。 そしてついにユノカルを相手に裁判を起こし、 10 年後の 2004 年、ついに和解を勝ち取ったのだ。人権侵害が行われている当事国で物事を解決するよりも、企業の本拠で、その企業を訴えるという手法を確立した彼らは、ア マゾンの先住民と連係し、アマゾンを違法に乱開発する多国籍企業に対する裁判を起こしているという。弱冠 30 歳前後の若者 2 人が成し遂げた歴史的快挙に、会場は自然と全員が立ち上がり、部屋が割れ宇ほどの拍手で称えた。周りを見渡すと、感動して泣いている人もたくさんいた。

Bioneer たちに、原稿を棒読みする人はいない。誰もが前を見据え、世界を良くしたいという思い、それを実現するためのすばらしいアイディア、そして未来のビジョン を語る。そして誰もが惜しみなく声援、拍手、どよめき、ため息が起きる。日本にも、このような深くて、熱いイベントがあったら、と思わずにはいられなかっ た。

約100の企業・団体・NPO/NGOが出展

100 以上出展した NPO ブースのひとつ。参加型の CM を作成できるとあって、人気を博していた。

午前中の全体セッショ ンが終わると、昼食である。昼食券を購入し、ノンベジタリアン、ベジタリアン、ビーガンフード(より厳格な菜食主義に基づいた食事)に分かれて並ぶ。驚い たのは、ビーガンが 40 %ほどで、ノンベジタリアンよりもずっと多かったことだ。そして、ほぼ全員が水筒を持ち歩いていた。

また、会場のあちこちで、約 100 の企業・団体・ NPO/NGO が出展していた。多目的ホールでは、 NPO/NGO のほか、社会的責任投資ファンドや、オーガニック食品メーカー、持続可能性をテーマにした雑誌メディア、衛星放送局、ウェブメディアなども出展、エコな本 だけを扱う書店、 CD ショップ、オーガニックカフェテリアなども盛況であった。

ライブに分科会、そして祈りも

会期中には会場のあちこちでライブ、ダンス、スタンダップコメディ、映画上映会などが行われた。また、地球の未来を憂える 13 人の先住民のおばあちゃんたち「 13 Grandmothers 」(The international Council of Thirteen Indiginous Grandmothers)によるお祈り、種の交 換会、映画上映会、地元の農家が食事を振る舞うパーティなどが行われ、最終日にはサンフランシスコ全域で行われたライトダウンイベントに連動した記念講演 も開催された。

分科会セッションはもっと実践的テーマで話し合う。

午後からは会場で 5~6 のグループに分かれての個別セッションだ。それが、午後に 2~3 セッションある。興味深いセッションがたくさんあったが、ここにすべては書ききれないので、私たちが参加したセッションを紹介しよう。

「 NO 原子力?それともグリーン原子力?地球温暖化と原子力についての議論」では、環境問題の観点から”グリーン原子力”を推進するべきだという意見と、原子力 なしで地球温暖化を解決するという意見が真っ向からぶつかり、大変に興味深い議論となった。

「企業ジャーナリズムと市民ジャーナリズムと環境問題」では、かつては唯一の権威であった新聞社やテレビ局が次々と巨大多国籍企業に買収されること で引き起こされるさまざまな問題(企業の不利益になる情報が扱えないなど)について、また、マスメディアが力を失っていくことで起きるさまざまな問題(政 府、企業に対する問題追求機能の弱体化など)、また、隆盛するブログやウェブメディアなどの、市民メディアがもつ問題(コピー&ペースト症候群など)につ いて活発に話し合った。

「小さいメディアプロフェッショナルが巨大なマスメディアをつかって希望をマス化する方法」では、レオナルド・ディカプリオが自費を投じて製作した 環境をテーマにした映画「11th Hour 」 (日本では来年6月公開予定)の脚本、プロデューサー、監督を務めたナディアとレイラ・コナーズ姉妹が、どのようにしてメインストリームメディア企業であ るワーナーに食い込み、映画を通じて彼女らのポジティブなメッセージをマスに伝えることに成功したかということについて語った。

「世界を変えるために、草の根が Web2.0 のパワーを活用する方法」はブログ、 SNS 、 YouTube 、 RSS などを活用し、いかに少ないリソースで最大限の社会変化を起こすことができるか、ということについて議論した。「海の革命」では、環境悪化に、船のスク リュー音やソナー音なども影響しているということから、イルカなどのほ乳類の鳴き声に類似した機械音を開発しているプロジェクト、亀の甲羅にカメラを取り 付けてカメの生態調査活動がウェブサイトに最新の動画を掲載し、子どもたちからの支持が絶大であることなどを発表していた。

3 日間のイベントに参加してきて、学んだ考え方、感じたことをまとめてみよう。

◇「グリーン」という広い概念があること

格差、人種差別、ジェンダー問題、教育、先住民、平和・戦争、政治、倫理、第三世界の搾取、スウェットショップ、食の貧困、健康、医療などの社会問 題すべてが、環境問題と密接に結びついているという認識。それらを包括する概念が「グリーン」になりつつある。

◇ビジネスや科学などの近代的価値観と、多くの先住民が持っている土地に根を張った哲学、価値観の融合を目指していること

多くの Bioneer たちから、先住民の知恵と考え方からビジネスや科学が学ぶという態度、それらを両方あわせもつことを通して、持続可能な社会をつくろうという意思が感じら れた。

◇知恵をもち、革新的なアイディア、枠組み、仕組みを創造し、実践することで人々をリードする「リーダー」を重視していること

あらゆる社会、環境問題の原因と結果の関係がきわめて見えにくくなっている今、それらを解決するために、「 Out of the Box (箱の外に出て)」考えられるリーダーの存在が極めて重要であるし、日本でもそのようなリーダーを育成する仕組みが必要だと強く感じた。

◇革新的なビジョンを実現するための、語り、伝える技術

たくさんの人の前で、引っ張って、落として、笑わせて、メッセージの本質を聴衆の心に送り、心臓をわしづかみにする技術。日本のさまざまな環境イベ ントに参加してきたが、これが圧倒的に違った。

緑があふれる会場のようす。会場内には給水ポイントが多数あり、みな水筒を持ち歩いていた。

◇人種、学問、文化的に多様で、非常に分野横断、学際的であること

Bioneers の参加者は、基本的には白人(印象としては、高学歴、高収入)が多いが、女性、黒人、ヒスパニック、ネイティブアメリカンなどの Bioneer たちも全体の 2 割程度参加していた。最初にも書いたが、彼らの専門分野は多種多様、さまざまである。日本において、ここまで多種多様な分野から集まった人々がひとつの大 きなテーマについて語り、共有し、学ぶイベントを、私は体験したことがない。

世界中のあらゆる分野のあらゆる才能がつながり、変えていく世界

Bioneers のメッセージとは何であったのか。それは、地球温暖化、環境問題という人類史上最大の問題を解決し、持続可能で誰もがハッピーな世界をつくりだすことは、 決して特定の分野の専門家の仕事ではなく、世界中のあらゆる分野のあらゆる種類のバイオニアが立ち上がり、つながり、知恵と経験、ビジョンを共有し、革新 的な手段で社会をシフトする必要があるということだったように思う。そして、その地球大のうねりはもう、始まっているのだ。

基調講演でケニー・オースベルはこう語っていた。「ここにいる私たち全員が『 Bioneer 』です。意思を持った人々が集まったことを祝い、学び、つながり、世界をよりよい場所に変えていこうではありませんか」。つまり、オルタナを開き、この記 事を読んでいるあなたが、この地球大のうねりの主役なのだ。

2008年2月13日(水)20:17

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