キュレーションサイト問題の「本当の問題」とは
ツイート2016年後半、僕にとって印象に残ったニュースのひとつが、「DeNA」が運営する医療系情報サイト「WELQ(ウェルク)」が、不正確な情報や、著作権への配慮を欠く記事を掲載していた問題で公開停止となった事件だった。
「DeNA」はクラウドソーシングサイトを使って、記事を書くライターを募り、ネット上にある既存の記事を書き直させるというような手法を用いて、自社のwebサイトを作成していた。
この「DeNA」の件を発端に、「DeNA」以外の他社の「まとめサイト・キュレーションサイト」と呼ばれるサイトも公開停止になるなど、その影響は小さくは無かった。
実はこの「WELQ(ウェルク)」の案件が話題になる数カ月前に、僕は個人的に、あるクラウドソーシングのサイトを覗いてみたことがあった。
当時、そこで堂々と「こちらの指定するサイトをもとに書き直しをしてください」などというような募集がされているのを目にして「うわ、インターネットの闇を見てしまった!」と、僕は暗澹たる気持ちになっていた。
そして「こんなことが、まかり通っていいものか」と内心、憤ってもいたのだが、案外早く、このような手法でのサイト作成が問題化されて、少し安心した気持ちにもなった。
この事件の背景には「大企業・有名企業が、ただ利益だけを求めて、モラルやコンプライアンスをないがしろにしている」という、企業側の姿勢の問題があるのは当然のこととして、そのような記事作成の仕事を受注したライターの側の問題もある。
ライターの中には、「悪いとわかっているが、食うために仕方なく」という動機で、そのようなサイト作成の仕事に手を染めてしまった者もいただろう。
だが、一方で気になってしまうのは「悪いと思っていなかった」というような者もいたのではないか、ということだ。
クラウドソーシングサイトの登場で、様々な働き方ができるようになったことは歓迎できる。
だがその反面、ライターの仕事に参入できる障壁が低くなり、プロとしてのモラルもプライドも持ち合わせていない者までが安易に仕事を受注できるようになってしまった。
その中には本来であればライターとしての適正を持たない者もいたと思う。
「自分の言葉を生み出せない、自分の表現を構築できない」のであるならば、書かなければ良いし、ライターの仕事などやらなければ良いだけのことだ。
だが、そんな者でも「著作権無視のコピペ・リライト作業」をやり、「まとめ・キュレーション」サイトを作ることで、あたかも「普通のこと」のように仕事を得られてしまう状態が成立していた。
そんな状態では、罪の意識を持つ以前の者もいたのではないかと思う。
だが、これは僕の感覚では歪んでいるとしか思えない。今回の「DeNA」の問題をきっかけに、このような歪んだ状況が是正されることを願う。
僕が最初にインターネットの世界に参入したのは99年。
あの頃のインターネットはむしろ「本では得られない情報」「日常では知り合えない情報」に出会える場だという感覚があった。
僕自身も自分でサイトを作成する時には、そういったサイトを作ろうという気概で臨んだものだった。
でも、いつの間にか「コンテンツを作る=どこかのサイトからコピーする」というような手法がネット上に蔓延してしまった。昨年の「DeNA」の問題は氷山の一角に過ぎない。
そもそも「ネットで拾った情報を、ネットに発信する」というような構造に問題があるのだ。
そう、本当の問題は「人々がネット空間だけで閉じていること」ではないのか。
そして、このような状況が当たり前のことになり、「戦争を知らない子どもたち」ではないが「スマホしか知らない子どもたち」が大人になった時、いったいどんな世界が人類を待ち受けているのか、と考えると、何とも恐ろしい気持ちになる。
さて、そんなふうに怯えてばかりで、ネット空間の永劫回帰に悲観したニヒリストになっていても仕方ない、僕は僕でやるべきことに向かって動いていきたい。
僕が理事長を務めるNPO法人pipes of pieceではこんなイベント講座を企画している。
地域の人と顔を合わせながら、日本に伝統的に受け継がれて来た古典文学の名作「源氏物語」「百人一首」「平家物語」を原文で鑑賞するという企画だ。
「人に会うこと」と「本を読むこと」、この2つを通して、僕はこの世界に立ち向かって行こうと思う。
2017年1月17日(火)13:34
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