企業報告はどこへ行くのか

あらゆる活動や価値を現金化することは可能か

重要な視点の一つは、「長期的であれ短期的であれ、非財務情報を数値化したり、それをキャッシュ・フローに明確に結びつけることは、不可能なことも多い」ということです。

フランスのケリング社などが自然資本プロトコルを見据え環境財務報告に果敢に挑戦しているように、ESG情報をキャッシュに換算していく試みが進んでおり、今後ICTやAI技術の発展によって飛躍的に可能になっていくことも考えられます。また、NGOを中心にインパクト評価も進んでおり、創出した社会的な価値を把握する試みも広がりを見せていくでしょう。こうした動きが重要であることは前提ですし、可能な部分は財務資本であれ、自然資本であれ、社会関係資本であれ相互の関係性を具体的にすべきであると考えます。

ケリング社 環境損益計算書 http://www.kering.com/en/sustainability/epl

社会的インパクトイニシアチブ http://www.impactmeasurement.jp/

それでも、すべての非財務情報が数値化でき、しかもそれが財務資本に換算できるというのは難しいのではないでしょうか。しかも統合報告が目指す長期の影響となるとさらに困難です。女性の役員が多いと10年後に営業利益がどれくらい高いとか、障がい者雇用比率がどれだけ高いと、どれくらいのキャッシュ・フローにつながるのかとか、そんなことを示さないと開示できないのでは、何も開示できませんし、開示までのコストや時間も計り知れません。

統合報告の重要な役割は、「数値にし得ない定性情報からインスピレーションを与える機会を提供する」ことにもあるのではないでしょうか。まずは企業の方針やステークホルダーの関心などを勘案して、企業がそれに対してどう考え取り組んでいるのかを、できるだけわかりやすく伝えるということが重要です。なぜなら、儲かるからその活動をしているわけではなく、企業が目指す価値創造だからその活動をしている、という観点が統合思考なはずだからです。

今回は統合報告(企業報告)における問題提起と、報告の目的と手段の再確認を提起させていただきました。次回は少し投資家やアナリストの視点にも焦点を当ててみたいと思います。

nakahata_yoichi

中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..