AIや自動化は人間から「学ぶ機会」を奪う

高橋寛和
U-Landscape Design株式会社 代表取締役
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今後、AI(人工知能)がさらに普及すると無くなる業種があると言われます。より深刻なことは、仕事を学ぶための機会が奪われていくことです。

建設コンサルタント業界(私の専門は公園緑地、環境の分野です)でも、一度その変化を経験しました。それは手書き製図からCAD製図へ、電卓計算から表計算ソフトへの移行です。

ちょうど私の世代(40代後半)が手書き製図とCAD製図の切り替わりを経験した末端の世代にあたります。

学生時代、私が造園設計事務所でアルバイトをしていた頃は、作図はT定規と三角定規であり、数量計算書も設計書も、紙とエンピツと電卓でした。

アルバイト期間の途中でロータス123(表計算ソフト)が導入された時には、あまりの便利さに驚いたものです(当時はモニターがパソコン本体だと思っていました)。

そのころ、造園設計は曲線が多く不定形な形状と植物など生き物を扱う分野のため、CADには不向きと言われていました。当時は手書き図面にワープロで打った文字を透明シールで貼るなど、今から思うと不毛な作業を延々としていました。

私が社会人として造園設計業界に入ったあたりでさえも、まだまだCADの導入は一部の会社だけでしたので、ドラフターで設計しつつ、自前で中古のLCIIIとMiniCadを購入し、会社へ持ち込んで設計に使えるかのテストをしておりました。

そのような移行を経験した目で私の上の世代と下の世代の技術者を見てきて感じていることがあります。手書き製図からCAD製図へ、数量計算や設計書の電卓計算がExcelへ変わったことで、その前後の技術者の経験の積み上げ方に大きな違いがあるのです。

■トレース作業の繰り返しで設計を学ぶ

CAD導入後に業界に入った世代は、手書きのトレース作業が無くなったことが、最も大きな技術取得機会の逸失であったと考えています。手書きでは図面をゼロから引かねばならず、小さなものはメーカー図面のトレースから、大きなものは過去の設計資料から似たディテールを探し出して書き起こすことなどです。これらのトレース作業を繰り返す過程で、作図の基礎や構造の成り立ち、図面の構成や考え方、さらには設計の進め方を学べました。

CADを使うとトレース作業がほぼ無くなり、ディテールはコピぺで済むようになり、じっくりと図面を読み込む機会が無くなります。

表計算ソフトの導入にも、同じことが言えます。バイト時代には事務所スタッフの書き起こした計算式を電卓で計算して答えを書いたり、手書きの設計書の数字を電卓で検算し、間違えを見つけたら消しゴムで数字を消して、書き直したりしました。

この過程で計算式の組み立てや設計書の流れを何回も見ますので、自然と覚えるようになります(設計書とは概算工事費を積み上げた工事見積書のことです)。

表計算ソフトを使うと、計算は全てソフトが自動で行いますので、過程をじっくりと眺める時間が全く無くなります。

若手に限らず、経験の浅い分野の仕事を学ぶには、どの分野においてもこのような時間のかかる一見不毛な単純作業の繰り返しが有効であると思います。覚えることに時間のかかる分野は、簡単に後続に追いつかれません。

CADや表計算から入った世代は、CADや表計算ソフトによってじっくりと学ぶ機会が奪われ、浮いた時間で多くの業務をこなすことを強いられていることでしょう。

■ 仕事で学べる要素は限られる

少々話がそれますが、仕事というものは実践を通してしか学べない事が多いものですが、仕事の中だけで学べる要素は実は案外少ないものです。造園設計で言えば、造園と言いながら公共造園の分野は土木設計の要素が強く、植物を扱う部分が思いのほか少ないです。

つまり仕事をこなしているだけでは、覚えられる造園木が限られてしまいます。さらには雑木林など自然の樹木などは、調査系の仕事を請けない限り、なかなか業務で覚える機会がありません。

つまり自主的に学ぶ癖をつけないと、5~10年で技術者としてかなりの差がついてしまいます。受け皿を多く持つことで、様々な業務を経験できる機会を増やすことができます。

これからAIや自動化の波が本格的にやってきます。これはCADや表計算ソフトの延長線上にある変化で、水面下ではCADや表計算の導入と同時にジワジワと進行しています。

自動化を実現するには作業工程の標準化が必要であり、標準化されるような作業が自動化されると、その部分で担われていた学びの体験が全くできなくなります。専門業務を覚えるための基礎に当たる標準業務をAIが担ってしまうからです。

当社のような小さな建設コンサルタントでも、かなり昔から設計業務の自動化を取り入れていました。もちろん自前のスクリプトです。次回はそのことについて書きます。

高橋寛和
U-Landscape Design株式会社 代表取締役
U-Landscape Design株式会社 代表取締役。技術士(建設部門、環境部門)、森林インストラクター、林業技士(森林環境部門)多摩美術大学デザイン学科卒業。平成11年、遊緑地設計(有)を設立、都市公園や自然公園の調査、設計、里山の保全事業などに携わる。平成23年、U-Landscape Design(株)へ社名変更し、生物多様性に配慮した樹林地保全管理計画策定に重点を置き始め、地元横浜の市民の森やふれあい樹林、公園樹林地の保全管理計画の策定に携わっている。

2017年4月3日(月)19:51

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