基礎サイエンスとイノベーションの両立を目指して

白鳥和彦
オルタナ総研フェロー
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■学術的興味と事業化とのギャップ

私はこれまで一企業における研究者を対象とした研究助成の事務局を務めてきたが、その業務を通じて感じたことは、大学と企業の研究開発に大きなギャップがあることである。

大学の研究は、基本的に基礎研究が大きな使命であり、論文優先、世界初といったことが重視され、製品化にはまだ遠く、ラボレベルでの検証・研究が主となる。

企業は、利潤追求が目的であるため、技術競争力が求められ、基礎研究というよりは開発・実現可能性の検証に力点が置かれ、開発資金と回収計画が重視され、10年先の研究には目が向けられにくい現状がある。

最近読んだ山口栄一氏の著著『イノベーションはなぜ途絶えたか』(2016年、ちくま書房)では、下記のように述べられている。

「日本は、1990年代後半に起きた中央研究所の終焉の後、新しいイノベーション・モデルを見つけられないまま、今に至っている。しかも産業競争力を下支えする科学分野が収縮しており、根源的に危機的状況にある。
(中略)
周回遅れの日本が、科学もイノベーションも滅びゆく国にならないためには、パラダイム破壊型のベンチャー企業がどのようにして生まれるか、その本質に立ち戻り、科学者によるベンチャー企業をもっと強く支援するほかはない。
(中略)
10年後の未来は、現在の土壌の中からしか生まれない。とはいえ、事態は待ったなしで、大企業中央研究所モデルに回帰する余裕はもうない。技術インテリジェンス(土壌の中にどのようなパラダイム破壊が進行しているのかの探索)をする探索型研究組織を創り、かつ企業の垣根を取り去って、技術の目利き、すなわちイノベーション・ソムリエを備えることだ。見出されていないものの、パラダイム破壊の能力を有する日本のベンチャー企業は確かにある。だからこそ、日本で米国SBIRと同様の『スター発掘システム』を構築することが急務となる」

基礎研究(=サイエンス)をしっかり研究する研究者、そこから新たな社会に役立ちそうなものを発見し実用化に結び付けていく。そのために過去からのやり方、研究から実用化までの流れから、研究者も企業も変わる必要がある。それを支える国や企業も区変わる必要があると言えると感じる。

■やはり必要な研究資金

山口氏の著書の中にも述べられているが、基礎的な研究からベンチャー・実用化に進めるためには、それ相応の資金が必要となる。

日本では大学研究者の資金の多くは、科学研究費など競争的資金に大きく依存している。最近は実用的な研究に対する科研費が多くなったとの声を聞くものの、基本的には採択された研究・プロジェクトに関わるものが資金の対象であり、使用用途が明確なもの以外、他の研究にも活用できる研究機器や備品・試薬などには使いづらいという。

2016年のノーベル医学・生理学賞を受賞した東京工業大学栄誉教授の大隅良典氏はスピーチで、科学(サイエンス)の重要さを語っていた。すぐに実用化には結びつかないかもしれない基礎科学(サイエンス)にも、相応の研究資金は必要である。

将来的な科学技術の発展、また基礎から実用化のステージアップにも、研究資金は重要である。

文部科学省の米国における研究助成体制に関する資料(2010年)によれば、国立衛生研究所(NIH)、国立科学財団(NSF)、エネルギー省(DOE)、航空宇宙局(NASA)、農務省(USDA)、国防総省(DOD)6機関により、連邦政府による基礎研究支出の97%を占めている(FY2009)が、民間のファンディング団体の存在も重要であり、連邦政府のファンディングシステムの中で埋没しがちな世界規模の課題に積極的に取り組んでいる。

言うまでもなく、アメリカは寄付金文化の国であり、例えばスタンフォード大学の収入 55億ドル(2015-16年)のうち、寄付金収入 は21%もある。

日本では、すべての企業の統計があるわけではないが、日本経団連1%クラブの調査によれば、同団体に属し学術・研究(奨学金の整備や研究助成、顕彰事業など)を行っている三百数十社合計の寄付は、約226億円(社会貢献活動費用の13%)(『2015年度 社会貢献活動実績調査結果』より)となっており、その桁の違いには驚かされる。

■知恵を出して

研究資金は重要であり、将来の科学技術や産業振興に向けた社会的な支援をより大きくすることを願うことはもちろんだが、当面はまず現状から少しずつでも変えていくことが必要であろう。

上述した研究助成の事務局業務から、これからの学と産の課題として下記が挙げられる。

1.産学の速度ギャップを埋める必要がある
2.自然科学(サイエンス)を新しい技術(テクノロジー)としてリ・デザインしていく
3.さまざまな科学領域(例えば生物学から工学まで)で領域横断的な異分野融合・産学連携をこれまで以上に進める

特に3の領域横断的な異分野融合に於いての例を挙げると、積水化学工業では助成者など研究者を集めてのフォーラムを毎年開催しているが、異分野の研究者が集まることが特長であり、また参加した研究者もその必要性や重要性を語っていた。

実際に、生物学者が細胞の動きを機械工学的に観たらどうなるかとの関心を持っていたところ、このフォーラムの場で機械工学の研究で昆虫の動きを研究している研究者と議論が進み、フォーラム終了時間が過ぎても熱い議論をしていたのが思い出される。

このような場が将来の研究と実用化のひとつの道を作っていくのだろうと感じた。大学の研究者と企業の開発者が、異なる視点で議論し合い、新たな知を生み出していくことが、まだ日本の研究・開発に足りていないのではないか。

白鳥和彦
オルタナ総研フェロー
1981年に早稲田大学理工学部卒業後、精密機器メーカーで電子回路設計に従事。その後、積水化学工業で、宅内環境制御、居住環境、エネルギー・地球環境問題などの研究開発に携わる。2003年同社の環境経営部署新設とともに環境経営に従事。2005年同社のCSR経営取り組み開始とともにCSR経営に従事。2013年4月より積水インテグレーテッドリサーチ 主席研究員。環境経営、環境マーケティング分野での非常勤講師、客員教授なども勤める。

2017年4月6日(木)14:01

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