映画でできること、映画でしかできないこと

現代の課題を疑似体験

読者の皆さんたちは『わたしは、ダニエル・ブレイク』というイギリス映画をご覧になった方もいらっしゃることでしょう。社会派と言われ、社会的弱者に寄り添った人間ドラマを描くことにかけては定評のある名監督ケン・ローチによる作品です。

第69回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞しています。カンヌ国際映画祭で注目された映画は日本に配給される可能性が高いので、多くの方に観ていただける機会があると思います。ぜひ、観ていただきたい映画であるからです。

この作品には、格差の問題や生活保護受給申請問題などの内容が盛り込まれ、その中でフードバンクの存在ついて語る場面がありました。フードバンクとは、品質には問題がないものの、包装不備などで市場での流通が困難になり、商品価値を失った食品を原則として無償で受け、生活困窮者を支援しているNGO・NPO等の市民団体を通じてホームレスや児童施設入居者などの生活困窮者に供給する活動のこと。

賞味期限切れなど品質に問題がないにもかかわらず、従来は廃棄されていた食料を有効活用するものです。

この映画では、「ニューカッスル・ウエストエンド・フードバンク」として実際に活動しているベネラベル・ベーダ教会がロケ地の一つとされ、実際のボランティアやフードバンク利用者をも撮影されています。イギリスをはじめ、ヨーロッパ各地、ひいては世界的に広がっている社会的排除の現実を描いていると言っていいでしょう。

社会的排除は聞き慣れない言葉ですが、その最たる例は貧困によって社会活動への参加がしにくい状態とされています。貧困は文字通り貧しいことですが、経済的な貧困よりも、人間関係などの関係性が不足している点に着目しているところが、現代的な貧困の重大さがあるとされています。

『わたしは、ダニエル・ブレイク』という作品では、格差や貧困の現実を描く一方で、隣の誰かを助けることが自然な行為であることを主人公であるダニエル・ブレイクが教えてくれる内容となっています。

彼は心臓病におそわれ医師から働くことを止められ、国の援助を受けようとしますが、複雑に入り組んだ制度に押しつぶされてしまいそうになります。

給付金を受給する資格を得るために職探しをしなければならないという役所からの通告、病気で働けないのに制度が人を苦しめている情況を描きます。その中で彼は人間の尊厳の必要性を伝えてくれるのです。

制度にたどり着けない人々の存在

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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