映画でできること、映画でしかできないこと

ところで、一つのチャリティ・プログラムが展開されています。「映画を観て、チャリティに参加!」というもので、この映画で得られた収益を貧困に苦しむ人々を支援する団体に、有料入場1名につき50円全額寄付するというものです。この「わたしはダニエル・ブレイク」の本編が始まる前に紹介されました。

このメッセージを受け取って、映画を観に出かけよう、この映画を観ようと思う人が増えるでしょうか。とりあえずは、現在このメッセージを受け取った方々が、まもなく始まる映画の本編を観るために支払った入場料のうちの50円を寄付したことになるんだと認識を持つでしょう。

その後再び時間をとって、リピーター鑑賞となる可能性があるかもしれません。読者の皆さんは、どんな選択肢を採るのでしょうか。

いろいろな種類の映画を観たいと思う人なら、時間を優先し、再度観ようと思う方は少ないと思われます。けれども、これからご覧になる方、あるいは何を観ようかと考えていらっしゃる方に、こういう試みがあると知らせることで、映画鑑賞の動機付けになるかもしれません。

このプログラムから、一つの映画を思い出しました。2016年公開のドキュメンタリー映画『ポバティー・インク  あなたの寄付の不都合な真実』です。この映画は、善意の落とし穴を「寄付」という行為から考えさせる作品です。

寄付は、善意が発露しやすい最も身近な例のひとつと言えるでしょう。おそらく多くの現代人が寄付をなんらかの形でしたことがあると思います。それが純粋に善意の気持ちからであることがほとんどだと思われます。

しかし、実際にその寄付が他者の助けになったかどうかは、実は我々は知らないのです。本作はそんなグローバル社会における寄付の仕組みを詳細に解説するものとなっています。本作を観ると本当に他者の助けとなるには、考える力が必要なのだということがよくわかるのです。

しばし、この映画の内容をお話ししましょう。

映画は、ハイチを主にクローズアップしています。ハイチといえば2010年に大地震に襲われ多くの被害を出した国です。人口の約3分の1の300万人が被災したと言われており、世界中からたくさんの支援が寄せられました。

地震の被害により自給力を一時的に欠いた状況ではその寄付はとてもありがたいものでした。しかし、地震から3年たってもアメリカから毎年大量の米が届き続けていたそうです。

無料の米が大量に市場に出回るため、地元の米が売れなくなり、米の大量援助は結果として多くの農家の職を奪うことになってしまいました。

同様の事例としてハイチの太陽光パネル開発のベンチャー企業も、「電力不足を救う」と称して無料で大量に外国から送られてくる太陽光パネルを前に事業継続の危機を迎えてしまったのです。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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