非財務情報の先を見つめる投資家

ユニバーサルオーナーの視野は目先のキャッシュ・フローを超越する

それでは、機関投資家の観点ではどうでしょうか。 日本の年金を束ねる世界最大の年金基金であるGPIFのようなユニバーサルオーナーは、たとえば喫煙などの社会的な課題自体の解決により、社会や市場自体が健全になることでこそ、長期的なリターンが得られるというスタンスがあります。そして、長期的な社会の健全性が最終的な財務リターンにつながるという視点に立脚しています。これは、どの社会課題解決が一企業のどれだけのキャッシュ創出に寄与するか、といった視点を超越した、まさに、「ユニバーサル」な観点です。(『ESG読本』日経BP社)

世界最大規模の機関投資家であるブラックロックのラリー・フィンクCEOは、毎年世界の大企業向けに書簡を送っています。一昨年には、配当を安易に増やすことを戒め、昨年からESGについての開示を求めるなどしていますが、これも長期投資家ならではの、ユニバーサル的な視点が介在していると言えるのではないでしょうか。

オックスフォード大学のAmir Amel-Zadeh氏とハーバード・ビジネス・スクールのGeorge Serafeim氏が3月に発表した機関投資家を調査した論文では、ESG投資がメインストリームになるなか、クライアントやステークホルダーの要求や、倫理的な責任によってESG投資を行う割合が、最大のESG投資市場の欧州では、それぞれ4割(全体でも約3割)程度もあることが判明しており、単に投資パフォーマンスにつながるという要因だけを価値観の主軸に置くのは危険でしょう。

このように非財務情報を見る投資家層が多岐にわたるなか、多様な分析ニーズに応えるためには、統合報告の役割を、長期的であれ何であれ、財務的成果のみに収れんさせてしまう考え方に、疑問の余地があると感じないでしょうか。

それはすなわち、環境・社会基盤(社会)と経済基盤(お金)の切っても切り離せない結びつきが明らかになる中で、資本主義システム自体がもはや財務的成果中心(お金のみ)の考え方では持続不可能になっていることに、多くの人が気づき始めているからではないでしょうか。

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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