現在、新電力が契約していた企業に対して、旧一般電気事業者がより安い価格を提供して顧客を取り戻すという事例が相次いでいる。価格を下げるという点だけをとれば、健全な市場メカニズムの現れと考えることもできる。しかし、新電力に奪われた顧客に対してだけ、驚くほど安く販売しているのであれば適正とは言えず、その監視が必要となる。
航空会社の例で考えてみる。新規参入の格安航空会社(LCC)が東京−札幌間に定期運航便を飛ばすとする。大手事業者が新規参入者の脅威を受けて効率化をめざし、コストを削減して全体の価格を下げたのであれば、健全な市場メカニズムの現れとなる。
しかし大手航空会社が、全体の価格は変えずにLCCが飛ばした東京—札幌便の前後の便だけ狙い撃ちにして安く売るのであれば、不当廉売となる可能性が高い。電力販売についても同じことが言える。
そこで私は、支配的事業者の発電部門に自社の小売部門と同条件で他者に卸販売させる「内外無差別の規制」を導入することにより、電力システム市場を正常化していくべきだと主張している。
発電部門は、不当に高い卸価格で販売するのなら、自社の小売部門が立ち行かなくなる。また小売部門もすべての大口の顧客に安い価格で売り続けないといけなくなり、もし不当廉売をしているのであれば、経営は保てなくなる。一方で健全な市場メカニズムの現れで安くしているのであれば、内外無差別の原則を入れても何ら問題は起こらない。
その監視と評価を行うのが、電力ガス取引監視等委員会の役割だ。私は、支配的事業者のすべての電力販売価格を集め、分析すべきだと主張している。大口顧客の電力販売は、家庭の電力と違ってそれほど件数が多いわけでもないので、不可能ではない。
全件が難しいというのなら、せめて新電力から顧客を戻した案件の情報だけでもいい。事業者の経営情報になるため簡単ではないだろうが、現在は監視等委員会が「前向きに検討する」と言っている状態だ。
電力自由化の市場において、非効率な会社が立ち行かなることは問題がない。しかし、効率的であろうとする事業者が、フェアな競争環境がないことで参入することができなくなってしまうのは問題だ。そのためにも、内外無差別の原則を採用したうえで、監視等委員会がチェックしていく必要がある。