先にゴールを設定した上で、ターゲットを細かく刻んでいく手法は、「バックキャスティング」と呼ばれる。未来の到達点から、「後ろに竿を振る」という意味だ。バックキャスティングの思考法はスウェーデンの軍隊が開発とされる。上記の事例でも北欧の企業が多いのも興味深い。
残念ながら、バックキャスティングの手法はこれまで多くの日本企業にとって得意な作業ではなかった。日本人は元来、「不言実行型」で、現状からコツコツと積み上げる手法がに慣れてきた。一方、米国や欧州は遠い未来に野心的なゴールを置き(「有言実行型」)、もしできなかった場合には計画を修正し、さらに挑む。
日本人はバックキャスティングを見て、「もしできなっかたら誰が責任を取るのか」と思いがちだ。これも一種の倫理観であり、良し悪しではない。ただ、イノベーションは総じてバックキャスティング的な手法から生まれ、現状からのコツコツ路線(フォアキャスティング)からは生まれにくい。
ただ、その日本でも、トヨタ自動車が2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表し、社内外を驚かせた。2050年までに新車の平均走行時CO2排出量を90%削減
(2010年比)するターゲット設定は、まさにバックキャスティング的な思考から生まれた。
今後、日本でもSDGsがさらに浸透していけば、こうした野心的なターゲット設定が増えるはずだ。それは社会や顧客との約束であり、それを軸にブランディングやマーケティングを展開していくことこそが、次世代のソーシャル・ブランディングといえる。日本企業の奮闘を願ってやまない。