廃棄物ゼロ社会を目指して:日本コカ・コーラ

廃棄物のない世界という、夢物語と思われそうな話を実現させようとしているコカ・コーラシステムの担当者たちにも、それぞれの思いがある。それは、シニアマネージャーとして「容器の2030年ビジョン」を推進する近藤も同様で、彼もまた、胸中には特別な思いを抱いているという。

「私は20歳代の頃に、あるメーカーで自社工場の温室効果ガスを削減する仕事に携わっていました。でもその頃はデイリーワークを淡々とこなすだけで、環境問題に深い関心を持っていたわけではありません。ところがある日、気候変動問題を扱った1冊の本を読んだことで、自分の仕事がいかに社会的に意義深いことなのかと気づかされました。そのまま同じ会社に勤め続けてもよかったのですが、工場の外の広い世界で仕事をしたいと思って、当時の上司に『地球を救いに行ってきます!』と言って退職を申し出ました。上司も『分かった。行って来い』と言って、私を送り出してくれた。その後、環境に関わる監査の仕事を経て、2013年から日本コカ・コーラで働いています。『容器の2030年ビジョン』は、私の原点を思い出すようなスケールの大きな話で、個人的にもやりがいを感じています」

容器の問題を解決するだけで地球を救えるのか、と思われるかもしれないが、今海外では、容器を含めた海洋プラスチックゴミ問題が深刻化している。日本ではまだ問題視されることが少ないが、海外では大きなトピックの1つでもある。グローバルなネットワークを持つコカ・コーラシステムだからこそ、近藤には世界中の人々の温度感がダイレクトに伝わってくるのだ。

近藤は飲み終わって空になったPETボトルのラベルを剥がしながら、今目の前で何が起こっているかを解説した。

「清涼飲料を飲み終わった後に、ラベルが付いたままのPETボトル。これはゴミです。でもこうやってラベルを剥がせば、資源になります。この違いを広く伝えていきたい。ゴミの状態で捨てられたPETボトルをリサイクルするためには、リサイクル工場で、本来必要のない分離工程を経なくてはいけません。これには莫大な投資がともない、リサイクル率向上の障壁にもなっているのです」

消費者への訴求方法として、次のようにも述べた。

「個人的には『ゴミ箱』という呼び方が良くないのではないかと思っています。『リサイクルボックス』というのも普段口にするには長い。回収箱を、ゴミ箱と思わせない呼び名にするだけでも、意識は大きく変わるはずです」

より多くの人を巻き込んでいくには、さまざまな仕掛けが必要だ。とはいえ、人に動いてもらうには、その人にもメリットがなければならない。そのことは、近藤自身も分かっている。消費者にとってのメリットは何か。自分たちの掲げる「廃棄物のない世界」を実現することこそが、お客様にも最大のメリットだと近藤は言う。

「ゴミのポイ捨てを楽しくやる人はいませんよね。廃棄物のない世界というのは、みんなが楽しい人生を送っている世界。資源を再利用することで地下資源の奪い合いもなくなるから、戦争もなくなる。『World Without Waste』という言葉から、誰もが明るい世界をイメージできるでしょう。そこに向かっていく過程で、心の豊かさにもつながると思います」

日本はよく、環境先進国と呼ばれる。実際、世界のコカ・コーラシステムの中でも、日本の取り組みは一歩進んでいることが多い。近藤は「容器の2030年ビジョン」を予定よりも早い時期に達成し、日本を世界のモデルカントリーにするつもりだ。

「生産国としての日本は既に成熟しています。ではこれから何を売っていけばいいのかというと、持続可能なモノのつくり方や売り方だと思います。環境というとボランティアというイメージを持たれがちですが、私たちは企業としてビジネスに結び付けないといけない。実際、こうした取り組みは企業や製品のブランド価値を高めてくれます。きちんとビジネスにもつながる話だということを、社内外に、そして世界に示せたらと思います」

[プロフィール]近藤葵(こんどう・あおい)/外資系消費財メーカー、外資系監査法人を経て、2013年より現職。日本コカ·コーラでは環境マネジメントの他に、職場の安全・健康を推進する業務も担当
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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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