森に至るまでの道。(前編): 岩崎 唱

その1 和田峠スキー場跡地を森に還す活動

70年代後半に長和町が和田峠の国有林を借り受け、スキー場を開設した。和田峠は旧中山道で最大の難所といわれたた場所で、頂上は標高1,500m。分水嶺となっていて峠の北側に降った雨は信濃川水系を経て日本海へ。南側は天竜川水系で太平洋へと注ぐ。以前にも触れたことがあるが国有林を返還する場合は、元の森に還してからでないと返せないという決まりがある。

使用することがないスキー場を持っていても自治体にとっては財政負担になるだけなので早く国に返したい。ただ森にするには木を植えないといけない。ゲレンデには背の低い芝のような植物が密生していて、カラマツなどの種子が飛んできても発芽しづらい環境になっていて、自然放置では森に還るのに相当の年月がかかりそうだった。

そこでボランティアの手を借りて木を植えようと2011年から2014年まで森づくり活動を実施した。活動には、NPO法人 森のライフスタイル研究所の一般および企業のボランティアの他、町民や東京農大の学生たちも参加し、4年間でゲレンデ最上部までカラマツの苗を植え終えた。しかし、最上部の斜面はカラマツではなくミズナラを植えたところ、あっという間に鹿に食べられ丸裸になってしまった。カラマツはほとんど食害に遭っていなかったので安心していたのだがミズナラは鹿の嗜好に合っていたらしい。以後、そのエリアに再植林することはなく放置されている。

7年前に植えたカラマツはすでに樹高4mほどに(2018年12月 和田峠スキー場跡地)
旧ゲレンデ内の作業道の両側は森らしくなっている(2018年12月 和田峠スキー場跡地)

森に一歩近づいた和田峠スキー場跡地

さて、久しぶりに訪れた和田峠スキー場跡地は、植林時とはまったく違った景色になっていた。「森」と呼ぶまでではないが、山頂付近を除きカラマツは大きく育っていた。2011年に植樹をしたゲレンデ下部では、樹高は4m近くになっている。鹿による食害(剥皮食害、角こすり被害)はそれほどめだたなかった。中腹で一カ所、野鳥が集まるように木の実がなる広葉樹を植えたエリアがあったのだが、そこは丸裸になっていた。おそらく鹿に苗木がすべて食べられてしまったのだろう。

全体的に見てカラマツは順調に育っている。今後の保育作業だが、とりあえず数年間は手を付けなくてもよさそうだ。下手に除間伐をすると鹿が林内に入り込みやすくなり、食害が増える可能性がある。また、植林木の中で競争と淘汰が起こっているので、もうしばらくは自然のまま成り行きを見守るべきだろう。

スキーロッジの建物だけが、ここがかつてスキー場であったことを物語っている。建物の中に置きっぱなしのレンタルスキーの板が少し物悲しい。

旧ゲレンデ内の作業道の両側は森らしくなっている(2018年12月 和田峠スキー場跡地)

※東御市田之尻地区の山火事被害林と佐久市大沢財産区のヒノキ経済林は次回

フリーランスのコピーライター。「緑の雇用担い手対策事業」の広報宣伝活動に携わり、広報誌Midori Pressを編集。全国の林業地を巡り、森で働く人を取材するうちに森林や林業に関心を抱き、2009年よりNPO法人 森のライフスタイル研究所の活動に2018年3月まで参画。森づくりツアーやツリークライミング体験会等の企画運営を担当。森林、林業と都会に住む若者の窓口づくりを行ってきた。TCJベーシッククライマー。

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