森に至るまでの道。(後編): 岩崎 唱

 その3 荒廃した人工林にヒノキ経済林につくりかえる活動

最後に訪れたのは、佐久市の大沢財産区の森。大沢財産区では何ヵ所か植樹活動をしていたのだが、今回は、時間の都合で2010年から2015年まで活動していた「ヒノキ経済林づくりプロジェクト」の活動フィールドを視察。植樹をしたのは2011年から2014年までの4年間で、7,150本のヒノキを植えた。

2015年までは毎年、下草刈りも行った。それ以降は、地元の大沢財産区の皆さんが下草刈りを続けている。植えたヒノキの生育は順調。しかし、鹿が齧った跡のある苗木が多くみられた。枯れてしまうには至っていないが、木材としての価値は大きく下がってしまう。経済林として考えるとかなり厳しい状況だ。

大沢地区は鹿の出没が多く、日中少人数で作業をしていたときに間近で見かけたこともある。鹿の剥皮被害は、佐久だけでなく全国でみられるもので、あまり打つ手がない。柵を設けても、高く作らないと飛び越えて入ってくる。苗木に取り付ける食害防除チューブも市販されているが費用と労力を考えるとあまり現実的ではない。

地拵えを終えた植栽地(2011年4月 長野県佐久市 大沢財産区)
少し森らしくなってきた植栽地(2018年12月 長野県佐久市 大沢財産区)

着々と森になっているが、課題も残る

佐久の植栽地は、環境的な森づくりとしてなら合格点だが、将来、木材を産出する経済林としてだと及第させてもらえそうもない。今回の視察をする前は、そろそろ裾枝払いや除伐を始めた方がいいかもしれないと考えていたのだが、裾枝を払ってしまうと鹿が木と木の間を通り抜けやすくなり、剥皮被害が増大しそうだ。

もうしばらくは様子を見るべきかもしれない。大沢でも鹿の駆除は行われているようだが一向に減る気配はない。農作物への被害も多い。鹿の害をなくすことを考えるより、多少傷のあるヒノキ材でも活用できる方策を考えた方が早いかもしれない。とりあえず直近では手を付けなくてもよさそうだが、いずれ除間伐の作業をしていかないと、もとの荒廃した森林に逆戻りしてしまう。「何とかしなきゃ」という想いだけが強まった。

2014年に植えたヒノキはまだ小さい(2018年12月 長野県佐久市 大沢財産区)

フリーランスのコピーライター。「緑の雇用担い手対策事業」の広報宣伝活動に携わり、広報誌Midori Pressを編集。全国の林業地を巡り、森で働く人を取材するうちに森林や林業に関心を抱き、2009年よりNPO法人 森のライフスタイル研究所の活動に2018年3月まで参画。森づくりツアーやツリークライミング体験会等の企画運営を担当。森林、林業と都会に住む若者の窓口づくりを行ってきた。TCJベーシッククライマー。

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