サステナブルな社会に必要となる「社史」とは

社史とは何か。誰が何のために発行するのか。

社史とは、その名の通り企業の歴史を記録し、伝える書物で、基本的にはその企業自身が発行します。日本では1913年に日本銀行が『沿革史』を発行して以来、100年以上続く「文化」です(※1)。「文化」としたのは、ひとつには社史というものは事業の一部を超えた、ひとつの企業の信念・社会的責任、もっと言えば企業の意地で発行されるものであり、経済的な効果を少なくとも短期的観点からは超越した後世に遺るものであるからです。

社史を発行するという行為は日本独特のものであり、統合報告やCSRという外来種の企業レポートと異なり、日本が世界に誇れる大切なものだと思います。

日本は、世界の中でも突出して長寿企業が多く、100年以上の歴史を紡ぐ会社が3万社以上あります(※2)。さらには世界の創業200年以上の企業の43%を占めています(※3)。その多くは中小・零細企業であり、いたずらに規模を追わず、地道に経営を営んできた企業です。社史を発行するのは歴史のある企業の中でも中規模から大規模な企業が多いです。社史を発行するだけの企業体力があることが前提にあるでしょうが、総じて大規模になればなるほど、社会に与えた影響が大きいということもあるでしょう。

発行する目的としては、30年や50年などの周年を契機に「会社の足跡に学び、今後の経営に役立てる」「会社のアイデンティティを確認する」「社員に周年などの節目を意識してもらう」「社員とその家族に会社への理解を深めてもらう」「業界の内外に、感謝の気持ちを伝える」「企業のイメージづくり」「業界、社会への貢献策」などがあります(※4)。これらのうち、最も重要と思われるのは、最初の2点であり、すなわち、「生き残りをかけて企業のDNAを重要なステークホルダー、特に従業員に引き継いでいく」のが社史の最大の役割のひとつであると考えられます。

nakahata_yoichi

中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..